箱庭の楽園 <博識の諦観> 楽園を願った少年達は、いつしか青年と形容されるようになり 楽園で息絶えた少年少女は、再び楽園へ生まれ落ちた。 それを望んだ天才は、呪いと愛を囁く愛しい完成品を腕に、楽園の箱庭を育んで。 歪んで捩れて、ぐちゃぐちゃに絡まった幸福の楽園は、それでも優しい夢を紡ぐ。 「先生」 「凪、リボーンでいいと言ったはずだぞ」 「でも、やっぱり、先生は先生だから。」 不意に顔を覗かせた少女は、愛らしく小首を傾げてそう言いながら、資料の積み上げられた部屋に足を踏み入れた。 それを視界の端に捉えて、リボーンは手元のPCから顔を上げる。 「どうした」 「綱吉が、泣いてる」 「どこで」 「ずっと、ずぅっと泣いてる」 訥々と紡がれていく言葉は、あまり多くを語らない凪なりに何かを伝えようとしていて、それを知る男は静かにそれに耳を傾けた。 「綱吉は、恭弥も了平も骸も先生も大好き。でも、綱吉には、貴方達が信じられない」 「―――そうだな」 「だから、泣いてる。あの日から、ずっと」 リボーンは、無表情で話す少女を見遣って、言葉を紡いだ。 「凪、お前は?」 「―――何?」 「お前は、いいのか?」 「・・・私が貴方達を愛しているのと、貴方達が私達を愛してくれるのは、別だから」 きっぱりと言い放った凪に、リボーンは一瞬瞳を見開いて、その美貌を緩める。 そして立ち上がり、艶やかな黒髪を撫でてやってから扉へと向かった。 「先生、大好きよ」 「ああ、俺もだぞ、凪」 「綱吉も、先生が大好きよ。きっと、昔から、ずっと」 「知ってる。昔から、ずっとな」 「そう。私も、知っていたわ」 ふわりと無邪気に微笑んで、凪はリボーンの横を軽やかに通り過ぎ、扉を開く。 「京子も武も、きっと先生が大好き。この場所が、大好き」 「骸にも、同じことを言ってやれ」 「―――えぇ」 差し込んでくる外からの光の中、少女はまるで聖母のように微笑んでいた。 「あの人は、人一倍寂しがり屋だから」 「ツっくん?うーん、見なかった、かな?」 キョロキョロしながら廊下を歩いてきた京子を呼び止めれば、数瞬考えるような仕草の後に、きょとん、と首を傾げた。 日の光に透けて、栗色の瞳がきらきらと光をはじく。 「あはは、先生、よっぽど慌ててるんだね。どうかしたの?」 「いや。お前こそ、誰か探していたんじゃねーのか?」 「お兄ちゃん探してるの。お兄ちゃんったら酷いんだよ、あの日からまともに顔合わせてくれなくて」 いつもの天真爛漫な笑顔を少し翳らせて、少女は困ったように笑った。 「だから、授業の間はいつも探してるの」 「・・・なぜだ?」 「だって、お礼が言いたいから。あ、先生にも言わなきゃ―――ありがとう、先生、私を生んでくれて」 にっこりと笑った京子の笑みは、リボーンには眩しすぎるほどに幸せそうで、言葉を失った。 「なぜ、だ?」 「だって、私は幸せだもの。ツっくんや凪ちゃんや武くんやお兄ちゃんや恭ちゃんに骸さんに先生がいる、この場所が大好きなの。みんなと一緒にいられて幸せなの。みんなが、もう一度私と一緒にいたいって願ってくれて、本当に嬉しいの」 「―――」 「むかしの“京子”にはなれないけれど、私は私でしかないから―――それでいいの」 「そう、か」 真の幸福を知る者の瞳で笑う京子に、リボーンは降参だと諸手を挙げた。 そして、栗色の髪をぐしゃぐしゃと撫でてやる。 「大好きだぞ、京子」 「うん、私も大好きだよ先生。みんな大好き」 「早く、了平の所に行ってやれ」 「うん!」 リボーンの言葉に背中を押されたのか、京子は元気よく返事をして小走りに廊下を通り過ぎていった。 「ツナー?さっきまで一緒だったけどなー?」 昼飯の後は見てないかもなー、と笑って、武はごろりと中庭の芝生に横になったまま、リボーンを見上げた。 手元には定期購読を申し込んでいる野球関係の雑誌があって、スニーカーはすでに脱ぎ捨てられており、少年が今まさにリラックスタイムだったことを物語っている。 「センセー探してんの?」 「ああ」 「ツナ、会いたがんないかもよ?」 「―――ああ、そうだな」 飄々とした少年の言葉は、けれども確かに棘を持ってリボーンの鼓膜を振動させた。 けれど武は、すぐに無邪気に笑って起き上がると、胡坐をかいた格好で男を見上げる。 「嘘だって、そんな落ち込むなよー。んー、多分、屋上じゃねぇ?あの日から、あそこにばっかいるって恭弥が言ってたぜ」 「そうか」 「ツナ、センセーが本当に大好きなんだ。恭弥とかも、大好きなんだ。だから、困ってる」 んー、と言葉を捜すように首をかしげながら、武は思いついた言葉をポンポンと口から音として零していった。 「ツナは混乱、してるんじゃねーのかな。先生たちに大事されて育ってきた分、その大事にされてた理由が、昔の自分にあったんじゃねーかって」 そこまで言ったところで、武は、あっ、と声を上げた。 「違う、ツナはちゃんとわかってるんだ。でも、心から信じられないんだ。ほら、だって、」 「あの子は臆病だからね」 「あ、恭弥」 いつの間にか、廊下の窓枠に肘をついて佇んでいる青年がリボーン達を見ていて、武がその名を呼んだ。 けれど、呼ばれた青年は、地面に座り込んでいる少年の姿に眉を寄せる。 「武、何度も言わせないでくれる、そこに寝転んでたら服が汚れるだろ」 「はは、ごめんって」 「まったく。リボーンも、ちゃんと注意してよ、行儀が悪いでしょ」 「・・・だ、そうだ」 「りょーかいっと」 けらけら笑いながら武は身軽に立ち上がると、軽く服を叩いて大きく伸びをした。 「ツナは怖がりなんだよ。ちょっと考えれば分かるのになー」 だってさ 「センセーにしろ恭弥にしろ、大事じゃねーなら12年も頑張って育てるわけないのになー」 「・・・まぁ、当たり前でしょ。ねぇ、“先生”?」 「―――・・・当たり前だぞ」 「だよな。だから、俺はここが好きなんだ」 「そう。武、もうすぐ昼休みが終わるよ、教室に行きな。リボーン、あの子は屋上だから。―――任せたからね」 窓枠から体を離して恭弥はそう言うと、くるりと踵を返して廊下を歩いていってしまった。 それを見送って、武はやや驚いたような顔になる。 「びっくりしたー恭弥が素直だ」 「・・・武」 「ん?」 「いや、なんでもねー。おら、授業行け」 リボーンが言えなかった言葉を察したのか、妙に聡いところのある少年は大人びた笑みを浮かべて男の顔を見上げた。 「俺、ここが好きだぜ。ここでみんなといるのが、何より一番好きだ」 「・・・」 「それは、ここしか知らないからじゃない。ここ以上に俺達が必要として、俺達を必要としてくれる場所なんてないからだ」 「―――」 吹き抜けた風に男の小さな声は紛れてしまったが、その唇がかたどった形からその意を察して、少年はこの上もなく嬉しそうに笑った。 「じゃあなセンセー、また後で」 「ああ」 言われたとおりに屋上へと来てみれば、煉瓦の石畳に大の字になって寝転がり、空を見上げている少年の姿が在って、リボーンの背筋が心なしか伸びる。 そして、一歩を踏み出した。 ツナ。 最上の愛しさと慈しみを込めて、何度その名を呼んだことだろう。 ツナ、なぁ、ツナ。 お前が信じる信じないは、もう、どうだっていいんだ。 お前が信じられなくとも、お前が別の綱吉の代わりだと自分で思っていても、構わない。 ただ、お前を愛してる、という その事実だけは知っていてくれ。 俺は、もう、それで十分だ。 たとえ、お前にとってそれが真実でなくとも、俺がお前を確かに大切に想っているという事実は、お前にだって変えられない。 Fin. み、見事に、嘉月だけが楽しい作文になってしまいました。。。orz これを学園パロだと言い張る嘉月の正気が知れません。 だがしかしupしてしまう嘉月の厚顔無知っぷりは、手の施しようがありませんね! 使用させていただきましたリクエストは、[主要キャラ幼馴染み]、[学園モノ&シリアス]、[リボツナ]です。 素敵なリクエストありがとうございました!! Back |