まろやかに甘く。
とろけるように冷たく。
果たして、捕らわれたのはどちらだ――――?


捕らわれているのは


空は雲ひとつなく晴れ渡っている。
眩しすぎるほどに青くて、蒼くて、碧くて。
白いカーテン越しに見える空を見て、綱吉は目を眩しそうに細めた。
ああ、今日も相変わらず暑いな、と胸の中で小さく零しながら。

「まぁ、日本よりかはいいんだけどねー」

日本の夏は、こちらよりも湿っている。
それは日本特有で、けれどもあまり喜ぶことは出来ないもので。
こっちはカラッと晴れているのから、まだマシか、と思ってしまうのだ。

うんうん、そうだよなー、と一人で頷く姿は、あまりにもマフィアというものからかけ離れている。
しかし彼は大して気にもせずに、いそいそと小さいカップを冷蔵庫から取り出した。

「ん。おいしい」

ひんやりと冷えたそれは、口の中で甘くとける。
同時に広がるのは、絶妙な酸っぱさを含んだ苺の味だ。
その美味しさに笑み崩れていた綱吉は、開いた扉に全く気づかず。

「―――――何してやがる」

超不機嫌な絶対零度の冷気を纏う、漆黒の死神の声でようやく気づくのだった。





「だーかーらー。そんなに怒るなって」
「誰がだ?別に怒ってなんかないぞ。このクソ暑い中に任務に行かされた俺を差し置いて、のうのうとアイスを食っていたお前を見ても、俺は怒らねーぞ?」
「………十分怒ってるじゃないか」

ぼそっと呟くと、あり得ないほどの笑みが返ってきた。

これは相当腹を立てている。

いや、怒っている、というよりは――――。

「ね、リボーン」

「ああ?」

超絶不機嫌なリボーンに向けて、綱吉は手を差し出した。
ふわん、ととろけるような、優しい笑顔で。

「こっちおいで」

一度口を開こうとして微かに唇を動かすが、リボーンは結局何も言わなかった。
そのあまりに全開な笑顔に、その気力を抜き取られてしまったというか。
仕方なく、不承不承にその手を取ってやると、綱吉はにこっと笑って。
ぐいっと引っ張って、リボーンを自分の膝に載せてしまった。

「………おい」
「んー?」

丁度向かい合わせになるような格好で座らされたリボーンは、怪訝な表情で綱吉を見上げる。

「何の真似だ」
「ん?べつに」

何の意味もないけど?とにこにこと笑う綱吉の意図は、まったくリボーンには分からない。
こんなときでも上を向かなければならないことに、物凄く苛立ちを感じる。けれどそれは決して表情に出さずに、もう一度唇を開こうとした。

その時。

「………もう一度聞くぞ。これは何の真似だ」
「だからもう一度言うけど、べつに何も」

目の前に差し出されたものは、スプーン。
正確に言えば、そこに載った薄紅色のアイスクリームだ。
一人沈黙するリボーンをよそに、綱吉はうきうきとスプーンを差し出す。

「食べたかったんだろ?これ、お前のお気に入りの店のとこだし。新発売の味なんだぞ?」

思わず身体を強張らせたリボーンを見て、やっぱりな、と密かに笑う。
リボーンは特別甘いもの嫌いというわけではなく、食べるときもあるのだ。それを表面に出さないだけで。
だから綱吉が一人で食べようとしたときに、不機嫌になったのだ。

「………なら、なんでこんな体勢なんだ」
「ん?俺が食べさせたいから。ほら、あーん」
「………は?」
「だから、口開けて。あーん」

にこにこと笑う綱吉を見るリボーンの目は、非常に冷たい。
こいつついに頭の中まで腐ったのか、と可哀相な人を見詰める目だ。
だがそんな冷たい視線にもめげずに、綱吉は笑顔で押し切る。

「ほらほら。早くしないと溶けちゃうよ」

確かに。
このままでは、溶けて不味くなってしまうだろう。

それならば。

仕方なく口を開けてやると、綱吉の顔がぱっと華やいだ。
それを視界に入れながら、口に入ってきた甘さを堪能する。

確かに、不味くはない。
甘すぎず、酸味との調和が丁度良い。甘いものが苦手な人間でも食べられるものだ。
表情がゆるくなったリボーンは、こちらを見詰める柔らかな視線を感じて仰ぎ見た。

―――――その琥珀に宿るのは、無償の愛情。
慈しむような、穏やかな、ただただ優しい感情。
木漏れ日のようにささやかで、そして太陽のように無くてはならないもの。

「美味しいだろう?今度、一緒に買いにいこうか」

その瞳も、声も。
甘くやさしくて。
心がとろけるような、絶対なる力を持っていて。

「………仕方ねーから、付いてってやる」

ただ、それは。

一度味わってしまうと、もう逃れられない。

一度それを向けられると、一生欲しくなる。

…………だが、捕らわれても、不快感はない。

くつり、と喉の奥で笑ったリボーンは、するりと綱吉の肩にもたれかかった。その甘えるような仕種に、微かに口元がゆるむ。綱吉はその華奢な身体を抱きしめて、ふんわりと瞳を閉じた。




そんなもの、聞かずとも知れているだろう?

今更逃れようとも思わない

fin.


Eteanal Anthology」 の茉莉様から頂きました!!

随分前に戴いていたのに、上げるのが遅くなりまして申し訳ありません・・・!!!(土下座)
お膝抱っこにお口にアーンって・・・どんだけ愛らしいんですか!!?嘉月が誘拐しますよ!!!!(犯罪です)
アイスが好きなリボーン!!かーわーいーいー!!!(こらこら)
こんなに可愛らしい作品を戴いてしまいまして・・・!!ヘタレ嘉月、相当癒されましたww
茉莉様、本当にありがとうございました・・・!!!


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