ご注意ください。 この話のツナは半端なく壊れています。 直接的な表現はありませんが、人が人を食べた可能性のある内容です。 嫌悪感を覚える方は見なかったことにしてください。 それはきっと、究極の甘美なる孤独。 男の割に白く整った指先。 すらっと伸びた長い手足。 細い首筋に、まるで命を与えられたピスクドールのようなかんばせ。 凛と冷たく輝く瞳は、研きぬかれて鋭く尖った黒曜石のよう。 嗚呼、どこもかしこも綺麗な貴方。 食べてしまいたいくらいだ。 午睡に微睡む視界の端に、黒い毛玉が見えて視線を向ける。 なぁ。 「なぁ」 金色の双眸が、ベッドの下から無邪気に見上げてきていた。 だらりと重力に従って細くなった腕を垂らせば、すんすんと湿った鼻がすり寄せられる。 「なぁ」 なぁ。 「おまえ、どこからきたの?」 なぁん。 「そう・・・おいで」 するりと額を撫でれば、その言葉に応えるように、絹のシーツに爪を立ててベッドの上にやってくる。 烏の濡れ羽色をした、金眼の子猫。 なぁ、なぁ。 「かわいいね」 子猫は甘えた声を出して、細く柔らかな毛で覆われた身体をすり寄せてきた。 それをあやすように喉を擽ってやれば、鳴き声に更なる甘さが加わって。 「かわいいこ」 手の中の温かさに、柔らかさに、うっとりと口角を上げて微笑んだ。 ぱん。 不意に、乾いた音が、日だまりのベッドに響く。 ―――その音ともに、ひくりと小さく温かな身体が跳ねて、やがて動かなくなった。 「・・・?」 手に滴ってくる紅い液体を首を傾げて見ていると、この部屋唯一の扉から鋭い舌打ちが聞こえる。 それに合わせて、赤黒い肉の中から、コロリと金属の破片が転がり落ちてきた。 「誰だ、そいつをここに入れたのは」 「りぼー、ん?」 天蓋から垂れ下がる紗のカーテンの向こう、大きく、そして頑丈な扉に立つ男。 その男が、不快そうな表情のまま、つかつかと歩み寄ってくる。 ベッドを包むカーテンが、さらりと揺れた。 揺れるカーテンの合間から、漆黒のスーツに包まれた腕が伸びてきて、くいっと顎を持ち上げられる。 光沢を帯びた、闇色の瞳が冷徹な光を宿して静かに見つめてきた。 くろ、くろ、まっくろ。 「×××さんみたい」 「・・・立て、部屋を移動するぞ」 「―――だっこ、して?」 腕を伸ばせば、男は一瞬呆れたような、哀れむような顔になって、それからゆっくりと細くなった腰と膝の裏に手を回した。 ふわりと体が浮いて、カーテンがさっきよりも大きく揺れる。 けれどすぐに元に戻って、赤黒いシミも小さな物体も紗に遮られて別世界のもののよう。 「どこに、いくの?」 「―――そうだな、次は―――ジェノバのポルトフィーノかエルバ島にでもするか。海、好きだろ」 「うみ?」 「あぁ。お前んトコに厄介者が忍び込んだと聞きゃ、ザンザス達が速攻で手配するだろーしな」 「・・・そう。きれいな、うみ?」 「そうだな」 「―――恭弥さんと、どっちが綺麗?」 「・・・さぁな。―――寂しいのか?」 しっかりと筋肉のついたしなやかな首筋に腕を回して、こみ上げてくる笑いをこらえることなく肩を震わせる。 「どうして?おれは、こんなにもこうふくなのに」 ずっといっしょ。 ずぅっと、ずぅっと、しぬまでいっしょ。 だってやくそくしたでしょう。 ぜったいにおれを“独り”にしないって。 だから、おれたちはずっといっしょ。 だから、おれはさびしくなんかない。 雲の守護者、雲雀恭弥が死んでから2年。 ボンゴレ10世がその帝王の座を降りて1年と10ヶ月。 綱吉の過ごす部屋が変わったのは、これで何度目だろう。 透き通った波が打ち寄せる海岸を歩きながら、リボーンは珍しく感傷めいた気持ちでそう思った。 すぐ手の届く範囲を、幼く無邪気な様子で綱吉が歩いている。 ―――その様子からは、マフィアの帝王として恐れられた冷酷さの片鱗どころか、28という実年齢さえ感じられない。 綱吉は壊れてしまった。 雲雀が逝ったその夜に。 そして今もって、ボスの護衛中に殉死した雲雀の遺体は見つかっていない。 それ以来、綱吉はドン・ボンゴレの任を解かれ、最高水準のセキュリティに守られた部屋で夢の世界を生きている。 けれど時折、その警護の細かな網を掻い潜って、現代のゴッドファーザーとまで呼ばれた綱吉に害をなそうとするものがいた。 その都度、今回のように過ごす部屋を変えねばならなかった。 綱吉の精神が安寧で、幸福で満ちたものであるための努力を、ボンゴレの人間は惜しまない。 だから、今回も綱吉が好む、自然に溶け合うような静かな部屋をエルバ島の一角を買い上げて用意した。 イタリア本土よりも、少し離れた、手ごろな大きさの島の方が良いと判断されたためである。 だが、リボーンは思う。 恐らく綱吉はどこにいても幸福に満ちているのだろうと。 殆どの時間を誰もいない部屋で孤独に過ごしながら、綱吉はつねに極上の幸福の中にいるかのように、夢見るような笑みを浮かべていた。 「なぁ、ツナ」 「なぁに、りぼーん」 「幸せ、か?」 波と戯れていた綱吉は、リボーンの問いかけにゆっくりと顔を上げ、極上の笑顔を見せた。 「しあわせだよ―――だって、ずぅっといっしょだから」 男の割に白く整った指先。 すらっと伸びた長い手足。 細い首筋に、まるで命を与えられたピスクドールのようなかんばせ。 凛と冷たく輝く瞳は、研きぬかれて鋭く尖った黒曜石のよう。 嗚呼、どこもかしこも綺麗な貴方。 食べてしまいたいくらいだ。 それはきっと、究極の甘美なる孤独。 fin. にしても嘉月は、ツナをドMにしてみたりレクター博士にしてみたり、ツナを何だと思ってるんでしょうね。 Back |