初めてSEXをしたのは、高校2年の夏休み。
相手は双子の兄だった。

何がきっかけでそういうことになったのか、夏の熱気に朦朧としていた記憶は定かではない。
ただ、恭弥の気にくわないことを俺がした結果、だったと思う。

誰かに会ったのだ、誰かに。
その後の出来事が衝撃的すぎて、誰だったのかはっきりとは分からないけれど。

何が一番衝撃的だったって、そりゃもちろん、めちゃくちゃ気持ち良かったことが何より衝撃だった。
まるで、元々は1つだったみたいに、抱かれてる時の一体感は半端じゃなくて。
病み付きになりそうなくらい、最高だった。


あ、訂正。
病み付きになりそう、じゃない、病み付きになった、だ。


You Never Know.



事後の気怠さって、何となく、風呂上がりののぼせた感覚に似ている。
風呂上がりとは正反対にベタベタしてるけど。

そんなことを考えつつ呼吸が収まってきたので、仰向けていた体を横にして、隣で枕を背に上体を起こしている恭弥にすり寄った。

「恭弥、水取って〜」
「はい」
「ん」
「―――まったく、甘えん坊」

目をつぶれば、兄の少し呆れたような甘い声がして、水に濡れてヒンヤリとした唇が降りてくる。
まるで雛鳥が餌を与えられるように、ミネラルウォーターを飲ませて貰って、俺はにっこりと満足気に笑った。

「今日母さん達は?」
「遅くなるって。夕食は先に食べるように、らしいよ」
「そう」
「ん〜運動したからお腹減ったー」
「ホント、綱吉は色気より食い気だね」
「えー?」
「ま、さっきまでは凄く色っぽかったけど」
「な、なんてこというんだー!」

真っ赤になった俺をクスクスと笑って、恭弥は黒い綿パンを着ただけの姿でベッドから起きあがると、部屋を出て行った。
やがて、台所の方から夕食を準備する音が聞こえ始める。



分かってる。
こんなこと、普通じゃないって。
昔から仲が良いね、とは言われまくってたけど、これはきっと、仲が良いの枠を超えてしまっている。

だって、恭弥を離したくないんだ。
きっと恭弥が誰かを好きになったら、俺はその相手を凄く嫌いになるだろう。
無理矢理別れさせようとするかも知れない。

好き、なんて言葉じゃ、きっとこのドロドロした気持ちは伝わらない。

好き、だけじゃない。

傍にいて。

抱き締めて。

俺だけを見ていて。

他の人なんか見ないで。

とっくに、俺は兄弟の枠組みからはみ出してしまっているんだ。
どうしようもないくらいに。

だから怖い。
恭弥にこんな汚い俺を知られることが。
恭弥が俺から離れていくことが。
こんなにも恭弥に依存している自分が。

怖くて仕方がないんだ。

こんな俺を、きっと恭弥は知らない。
どうか、知らないでいて欲しい―――。


「綱吉、まだ服着てなかったの?準備出来たよ」

ベッドの上でボンヤリしているところに、恭弥がひょいと扉から顔を出した。
それに若干慌ててつつ、近くに落ちてたジーパンを拾う。

「あ、うん!ありがとう」
「・・・どうか、した?」
「え?ううん、別に、何でもない」
「―――“別に、何でもない”って、綱吉が嘘をつく時の常套句だよね。・・・昔から」
「そう?あははは、いや、ホントに何でもないんだって」
「・・・ま、そう言うことにしてあげる。―――何かあったら言うんだよ」
「うん、ありがとう」

賢い恭弥。
優しい恭弥。
綺麗な恭弥。

―――俺の、恭弥。




きっと知らないよね。

俺が、『昔のこと』を思い出し始めてること。

君が、必死に俺を守ろうとしてくれている理由を、何となく思い出し始めていること。

ごめんね

一人で抱え込んで

一生懸命、俺を守ってくれているんだよね

君の優しさを利用してるんだ

アイツとのことだって、本当は―――。




君は知らない、こんなに汚い俺のことを。



Fin.


Back