ああ、うん、まあねぇ。

そうそう、確かに、そんな覚えもあった。

でもさ、ほら、なんていうの?

突っ込まれてばっかりだけど、一応俺も男なわけじゃんか。

据え膳喰わぬは〜って、昔の人も言ってるし。

だから、別にそんなつもりじゃないって!!

ってか、頼むから、その俺の口に刺さってる黒い銃口を下げてくれると嬉しいなぁ!!



Only you !



「それはツナさんが悪いですよー!っていうか最低ですよ!!」
「えぇー?」

ボンゴレ幹部の一人、三浦ハルの言葉に、同じように紅茶を飲んでいたボンゴレ10世 綱吉は、納得がいかないと眉を顰めた。

特に急ぎの仕事がない時、綱吉は部下を呼んで一緒にお茶を飲むのを習慣にしている。
今日は、そのお茶の相手役にハルが選ばれていた。

さて、お茶会の真っ最中の二人が一体何の話をしているかというと。

「だって、バレンタインデーですよ?普通に帰ってきましょうよ」
「いや、すっかり忘れてたんだよねー。ってか、去年もそんなに特別なコトした覚えもないし」
「それはお付き合いする前の話でしょう?」
「う・・・まあ、そうなんだけど・・・」

マフィアにさえ恐れられるマフィア界の帝王の執務室には似つかわしくない、恋バナだった。




話は2日前に遡る。

ボンゴレが経営している、表社会の会社での会議の帰り、綱吉は自分の愛人の一人に呼び出された。
その呼び出しで、綱吉はその愛人の所に久しく行っていなかったことを思い出し、そのまま愛人宅へと赴き―――まあ、夜遊びをして朝帰りをしたのである。

そして、久々の男役―――と言うと、とても悲しいが―――に満足して帰ってきた綱吉を迎えたのは、彼の元家庭教師で現専属護衛で、恋人でもある少年のツンドラの視線と銃弾の嵐だった。

アルコールの抜けきらない頭で、自分がそのような仕打ちを受ける謂われを考えて―――綱吉は一瞬頬を引きつらせた。

今日は2月15日。

と言うことは、昨日は2月14日である。

まさかとは思うが、リボーンは、バレンタイデーに帰ってこなかったことを怒っているのだろうか。

まさか。

去年のバレンタインデーだとて、お互い愛人の相手で手一杯だったし、誕生日も似たようなものだった。

今更、恋人同士の行事が何だというのだ。

綱吉はそう思ったのだが、どうやらリボーンの不機嫌の理由は、本当に、バレンタインデーに綱吉が帰ってこなかったことらしい。



おかげで、昨日今日と、睨んだだけで人が殺せそうな物騒な光を宿した瞳の専属護衛から、いつ背後から狙撃されるかと冷や冷やしながら綱吉は執務をせざるを得ない状況なのである。

というわけで、今回のお茶会の議題は、どうやってヘソを曲げてしまった年少のヒットマンの機嫌をとるか、ということであった。

「謝りましたか?」
「そりゃ、土下座する勢いで100回くらい謝ったよ」

けれどリボーンは、それはそれは美しい涼やかな笑顔でこうのたまったのだ。

『だからなんだ?』

それを聞いて、ハルの愛らしい顔が顰められる。

「あちゃー、それ、相当怒ってるじゃないですか」
「だろー?はぁ・・・まったく、どうしたらいいのかなー。このままじゃ、俺、職場のストレスで死にそう・・・」

ストレス死する前に、専属護衛の銃弾の露と消えそうだが。

そんな、ティーテーブルに突っ伏しそうな勢いの綱吉を見て、ハルはしばらく思案げな顔をした後、にっこりと笑った。

「そうですねー・・・これは良い機会ですよ、ツナさん」
「は?何の?」


「ツナさんの身辺を綺麗にする、良い機会です」


ハルは爽やかに笑っていたけれど、その目は決して笑ってはいなかった―――。




そのティータイムが開かれた日から、1週間。

綱吉は、相変わらず殺気にも似た空気を全身からはなっている少年を背後に、カリカリと書類を書いていた。
そして、ある程度の区切りがついたところで、クルリと後ろを振り返る。

「リボーン」
「―――」

名前を呼べば、ギンッと殺意混じりの視線を返されて、綱吉は一瞬たじろいだが、すぐに気を取り直して口を開いた。

「ヴィオレッタ、レヴェッカ、シモーナ、パオラ、アニタ、エレーナ、ジョバンナ、アンジェラ、ドルソリーナ・・・それにミンナ―――はまだ交渉中だけど、多分近日中かな」

聞き覚えのある綱吉の愛人の名前に、少年の眉が顰められる。

「―――何がだ」
「別れたよ、みんなと」
「―――は?」
「え、いや、だから別れたんだって」

だってお前がどうやったら機嫌直してくれるかわかんなかったから。
あっけらかんと笑うツナに、今度こそリボーンの瞳が驚きによって広げられた。

ボスの愛人は、決してボスの暇つぶしや性欲処理のためだけにいるのではない。
彼女たちは様々な情報をボスの耳に入れる役目を果たしているのだ。

しかも、綱吉の愛人の殆どはイタリア屈指の高級娼婦である。
才色兼備を具現化したような、極上の女達なのである。

それをあっさり切り捨てたと、言うのだ綱吉は。

「だって、ほら、情報収集ならハルが頑張ってくれるって言うし、ってか、俺も別口のルート持ってるし。」

それよりなにより。

「お前と気持ちよく一緒にいられない方が辛いしね」

珍しく呆然としている少年の頭を撫でて、綱吉は日溜まりのような微笑みをうかべた。

「―――ふん」
「俺にはお前だけだから。―――機嫌は直ったかな?王子様」

綱吉は、優しく頬を微かに染めたリボーンを抱き締めた。




その後、身辺整理をした綱吉に、愛人の所へ向かうたびに悲しそうな顔をされるようになったリボーンは、結局自分も身辺整理をすることにした。

自分だけと言ってくれる恋人に応えるのが、男の義務だとどこか幸せそうに笑いながら―――。


あなただけ。

そう言われることを、鬱陶しいと感じなくなって。

嬉しいと思える自分は―――。

闇の殺し屋に似つかわしくないくらい、幸せ者なのかもしれない。


腕の中で幸せそうに眠る恋人を見守りながら、リボーンはらしくもない呑気なことを考えながら、静かに瞼を降ろした。


Fin.


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