You are mine !


「惚気てんじゃねーぞ」

ズガン。
上司の話を聞き終わったりボーンは、その一言と一発の銃声を残して沈黙した。

「えぇ!?」

そんなーリボーン、話聞いてよーー。
捨てられた子犬のように縋ってくる教え子を完全に無視し、リボーンは再びドン・ボンゴレの背後という彼だけに許されたポジションに座ると、銃の手入れを始めてしまった。
それは、もうこれ以上綱吉の話に付き合う気はないというリボーンの意思表示。
10年以上の付き合いでそれを熟知している綱吉は、はぁ・・・とため息をついて、執務机に向き直った―――むろん、相変わらず上の空のままで。

その日のドン・ボンゴレの事務処理量は、右腕の眉を心配のために顰めさせ、秘書の眉を怒りのために跳ね上げさせた。




その夜、幹部たちとの会議を終えて自室に戻った綱吉の後ろに続きながら、雲雀は居丈高に腕を組んで上司を睨みつけた。BR>
「―――で、何なの、あの雀の涙程度の決裁書類は。一枚インクが染みて作り直しの書類もあったし」
「・・・すみません・・・」

ネクタイを緩めながらジャケットを脱いで、綱吉は居心地が悪そうに謝罪の言葉を口にする。
けれども、雲雀が求めたのは謝罪などではなくて。

「僕に理解できるように事情を説明してくれる?じゃないと噛み殺すよ」

見惚れるほどに美しい微笑を浮かべて、雲雀は綱吉の首筋にトンファーを突きつけた。
その身も凍るような雰囲気に気圧されたドン・ボンゴレは、視線をあらぬ方向に向けながら、先ほど家庭教師に語ったのと同じような話を語る。

すると―――

「ふっ・・・くっ・・・はははっ」

恭弥さんが壊れた。
珍しいというか、見たこともないほどに愉快そうに笑う恋人を見て、綱吉の背筋に戦慄が走った。

怖い。
似合わな過ぎて怖い。

動くに動けず固まってしまった綱吉を尻目に、雲雀の爆笑は止まらない。
そのまま笑い続けて5分後、やっと落ち着いたらしく綱吉が腰掛けているソファに身を投げた。
ぱさりと、膝の上に雲雀の艶やかな黒髪が散る。
涼やかな目元はかすかに紅色に染まっており、目じりには涙さえ見えた。

「どんだけツボに入ったんですか・・・」

笑い上戸、という恋人の意外な一面(意外すぎて怖い)を見たために、綱吉の先ほどまでの憂鬱な気分ももやもやした胸中も、一瞬で吹き飛んでしまった。
あーもう何でも言いや、とマフィアの帝王は諦めたように呟いて、膝の上のさらさらの黒絹を愛しそうに撫でる。

「だって綱吉・・・君の思考回路があまりにも愉快で」
「普通ですよ!す、好きな人が・・・・好きな人を誰かが好きなのって・・・複雑じゃないですか!」

ディーノさん格好いいし、頼りがいあるし・・・素敵な人だから。
雲雀は、そう言ってむぅっと不機嫌そうな顔をした恋人の、色素の薄い髪を腕を伸ばして撫でてやる。

「素敵?あの跳ね馬が?」

綱吉の言葉に、雲雀の美しく弧を描く眉が顰められた。

「駄目だよ綱吉、あの外見に騙されちゃ―――ああ、まあ、あいつは君には確実に甘いから仕方がないのかもしれないけれど」

ディーノは、恋人が思うほど良い人間ではない。
まあ、マフィアに良い人間がいるわけもないが。

「恭弥さん?」
「あの男は欲張りだよ、マフィアらしくね。欲しいモノは欲しい、ってヤツ」
「ディーノさんは、恭弥さんが欲しいって・・・」
「ふうん?・・・僕も欲しければ―――君も欲しいんだよ、あいつは」
「―――は?」
「綱吉はあいつの可愛い弟弟子だからね。まあ、絶対あげないけど」

綱吉は僕の、僕は綱吉の。
ほとんど空気を揺らさずに身を起こして、雲雀はきょとんと首をかしげている愛しいボスを抱きしめながら、満足そうにそう紡いだ。

「そうでしょ?」
「―――う、は、はい」

雲雀がにっこりと笑って尋ねれば、腕の中の恋人は頬を染めながら、恥ずかしそうに、それでも確かに肯定の意を返す。
ぎゅっと背中に回された手は、雲雀が自分のものであると主張する、綱吉の無言の主張。

「恭弥さんは、俺のです。絶対、誰にもあげません。―――ディーノさんにも、絶対」
「当然。跳ね馬は君も狙ってるからね。・・・綱吉の場合は跳ね馬だけじゃないし」

あの赤ん坊に野球馬鹿に果実頭に・・・。
綱吉は、自分を腕に抱えたまま指折り数え始めた恋人の姿に、頬を緩めた。
そしてちゅっと自分から唇を合わせる。

「大丈夫です、今は、恭弥さんだけだから」
「―――うん。浮気したら、噛み殺すどころじゃ済まさないから」

君の人格を破壊して、新しい綱吉に作り変えてあげる。
優しく甘い囁きに、綱吉は陶酔したように微笑んだ。
そして、滑らかな首筋に、浮き出た鎖骨に、柔らかな唇に、心からの愛しさをこめて口付けをし合いながらドン・ボンゴレも言葉を紡ぐ。

「はい。恭弥さんも気をつけてくださいね?恭弥さんは綺麗だから―――気が気じゃありません。ディーノさんに誘惑されちゃ駄目ですよ?」
「身の毛もよだつようなこと言わないでくれる?それに、綱吉なんか黙ってても男が寄ってくるでしょ」
「―――あんまり嬉しくない現象ですけどね」
「本当だよ」
「俺は、恭弥さんにさえ愛してもらえれば満足なのに」

もちろん、好かれるのは嬉しいんですけど。

「愛しているよ、綱吉」
「はい―――俺も、愛してます」

だから、誰の元へも行かないで。

本皮のソファの上で、雲雀の膝にまたがる形で座った綱吉は、お互いの睫毛が触れ合うほどの至近距離で相手を見つめる。

「絶対、誰にもあげませんから。覚悟してくださいね?」
「逃げようとしても、逃がさないからね、綱吉?」

お互いの瞳を挑戦的に見つめ合ったまま、所有の宣言を交わす。
それはさながら、互いを貪り奪い合う獣の交わりに似ていた。





「結局、雲雀とツナのどっちが欲しいんだ、てめーは」
「ん?何でそれを・・・って、ああ、ツナに聞いたのか」

夜の帳が下りた下町のバール。
騒がしい店内の、薄暗い角部屋で、一人の死神と一人の跳ね馬が杯を酌み交わしていた。

「そーだなー・・・どっちも欲しいんだけど、ツナはお前とか他のヤツがうるせーからな・・・」
「なんだそりゃ」
「俺は欲張りなんだよ。理想としては、ツナと恭弥の間に入れたら面白いよなー」
「・・・育て方を間違ったか?」

弟子と弟弟子への愛が高じるとこうなるんだよ、と太く笑うかつての教え子を前に、リボーンは珍しく脱力したような表情をしてアルコールを一気に煽った。


Fin.


10000Hitありがとうございました!そして、リクして下さった、あや様ありがとうございます!
なにやら・・・でぃ、ディーノさんが痛い人に・・・!!申し訳ありませんorz
あや様のみお持ち帰り自由とさせていただきます。



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