Never Ending Story. 電子音が単調に響くだけの薄暗い部屋。 そんな部屋の中央に置かれたベッドの横で、リボーンは細くなった綱吉の手を握りしめていた。 綱吉の、色素の薄い睫毛で縁取られた琥珀色の瞳は瞼に覆われて見えない。 いつも、綱吉を前にすると上手い言葉が出てこなかった。 そんな自分に苛ついて、さらに口は重くなった。 綱吉の目に、そんな自分はどう映っていたのだろう。 今思えば、己の態度がどれほど綱吉を傷つけたのか、嫌というくらい分かるのに。 彼の目には、彼の伯父夫婦のように映ったのだろう、意識して無表情を取り繕う自分は。 綱吉を独占したかった。 あの澄んだ琥珀色の瞳に、自分だけを映して欲しかった。 誰の目にも触れさせたくなかった。 だから、自分のしたいようにした。 邪魔な王族を抹殺し、国権を手にして、自分のしたいことをするのに周囲が有無を言わないようにした。 そうして綱吉を自分に繋いだ。 その自分の行動に対しては、微塵も後悔していない。 けれど。 綱吉に対する負い目だけは、どうしても拭いきれなかった。 彼の未来を奪い、自由を奪った自分が、彼にそんな想いを伝えるのは虫が良すぎる。 何より、綱吉がリボーンの想いを受け入れなかった時、確実に彼を殺すだろう自分を自覚していたから。 だからそんなことは言えなかった。 「言っておけば、良かったな。お前がこんなになっちまう前に」 医者の見立てによれば、昏睡状態に陥る身体的原因は皆無なのだという。 ただ、心が目覚めることを拒否しているのだと。 「綱吉・・・」 愛してるという言葉は、音になることはなかった。 痛い 痛い 胸が痛い 切なくて、悲しくて、寂しくて 痛い。 諦めた。 俺は諦めた筈なんだ。 もう、リボーンに不相応な期待はしないって。 その手にかかって死ねるなら、それで十分だって。 なのに。 綱吉は、上下左右どころか色さえも存在しない世界で膝を抱えていた。 自分が一体どこにいるのかなんてまったく考えもしないで、ただ痛む胸を押さえながら。 どうしても願ってしまう自分がいることを、綱吉は否定出来ない。 もう一度、リボーンに自分を見て欲しい、もう一度、リボーンの暖かな声で名前を呼ばれたい、もう一度―――。 そんな風に、望みは後から後から際限なくわき出てくる。 愛してるんだ。 自分ではどうしようもないくらいに。 何とも想われてないってことも知っているけど。 目を覚ませば、また、リボーンを好きな自分と、自分を好きではないリボーンとを嫌でも見なければならない。 あんな痛くて寂しくて切ない思いをするのは嫌だった。 それくらいなら、どこかも分からない場所で膝を抱えていたかった。 だが、ふと膝を抱える自分の右の掌が、懐かしい体温を知覚した―――ような気がした。 まだリボーンが綱吉の家庭教師だった頃。 よく、彼は眠れない綱吉の手を握ってくれた。 その大きくて少しだけ冷たい手は、幼い綱吉にとって何よりも心強く、握られるだけで安心する力を持っていて。 綱吉は、リボーンの手が大好きだった。 そのことを思い出して、ボロボロと瞳から涙がこぼれ出す。 会いたい。 リボーンに会いたい。 昔みたいに、厳しいけれど、優しかったリボーンに会いたい。 例え夢でも構わないから―――。 ふっと、綱吉の琥珀色の瞳が開いた。 止め処なく涙を流す瞳は、茫洋とした様子で、自分を真っ直ぐに見つめてくるリボーンを映す。 そして綱吉は、安心したような、無邪気な微笑みを浮かべて呟いた。 「―――なんだ、そこにいたの、リボーン」 綱吉の言葉は、しっかりとしているのにどこか夢見るような現実感を伴わないもので。 その声を聞いてリボーンは絶望と共に悟った。 彼は、夢を見ている。 恐らく、一生覚めないであろう夢を。 「リボーン、おはよう」 「ああ」 「今日の課題は?」 「その辺りの本全部」 「多いよ!?あきらかに現実的な量じゃないよ!?終わりが見えないって!!!」 総督の寝室に、綱吉の抗議の声が響く。 けれどリボーンはそれら全てを聞き流して、居丈高に笑った。 「あぁ?てめー、俺の言うことが聞けねぇーってのか?」 「うっだ、だって・・・」 漆黒の瞳に射すくめられて、綱吉はしゅるしゅると身を縮こまらせた。 そして、小動物のように上目遣いで自分の「家庭教師」を見上げる。 「リボーン、また遠征に行くの?」 その言葉に、一瞬だけリボーンの瞳に影が過ぎるが、すぐにいつも通りの冷静な瞳に戻って、不安そうな綱吉の頭を撫でながら微かに笑う。 「―――・・・いや。ずっと側に居てやる」 「―――うん!」 リボーンの笑みに応えるように、綱吉は頭を撫でられながら無邪気で幸福そうな笑みを浮かべた。 そして、与えられた「課題」を読み始める―――。 身支度を調えて自室から出てきた上司に、骸は今日のスケジュールを告げた後、寝室の扉を眺めながら呟いた。 「今日は“遠征”ですか?」 「―――いや、ただの“散歩”だ」 「おや、それではさっさと用事を済ませなければいけませんね。綱吉くんが寂しがっては可哀想だ」 「ああ」 複雑そうな表情のリボーンを見て、骸は言葉を付け足す。 「これは、これで・・・良いのではないですか。綱吉くんは、今、とても幸福です。―――それを夢だと思い込んでしまってはいますが」 彼が、笑っているのならば、少なくとも、笑える場所があるのなら。 きっと以前よりは幸福だ。 「―――ああ」 リボーンは、秀麗な貌に微かな憂いを乗せて、執務室へと歩き始める。 骸は、そんな上司の後ろに従う。 そして綱吉は、覚めない幸福な夢の中で、大好きな「家庭教師」が“散歩”から帰ってくるのを、幸せそうに微笑みながら待っていた―――。 Fin. 10000Hitありがとうございました!そして、リクして下さった、きき様ありがとうございます! すみません・・・これが、このパラレルリボツナの精一杯のハッピーエンドでした・・・orz きき様のみお持ち帰り自由とさせていただきます。 Back |