You asked for it ! 「あれ、リボーン・・・?」 美味しいケーキに満足した帰り道。 たまたま方角が一緒だったので、クラスメイトの片割れと一緒に帰っていた綱吉は、向こう側から歩いてくる、見覚えのある子どもの姿に足を止めた。 夕陽に染まった象牙色の肌は、子どもの美しい容貌を更に引き立てていて、年齢に似つかわしくない色香さえも含んでいる。 子どもらしい大きな瞳が、綱吉の姿を認めた途端眇められ、整った口元がニィと美しく弧を描く。 ―――まるで、肉食獣が獲物を見つけた時のような、獰猛な笑み。 そのままスタスタと自分たちに近寄ってくる、顔立ちの綺麗な(本当に、外見だけはやたら綺麗な)子どもに、綱吉の横に立っていた少女は微かに頬を染めながらにっこりと笑った。 「沢田くんの、弟くん?」 「え、ああ、うん、親戚の・・・」 「そっか、可愛い子だね」 少女は少し腰を屈め、リボーンの真っ黒な瞳を覗き込んだ。 「こんにちは」 リボーンの機嫌が決して宜しくないことを察していた綱吉は、自分の家庭教師が何をしでかすかと冷や冷やしながら流れを見守る。 しかし 「こんにちは」 にっこり。 リボーンが少女に向けたのは、綱吉が今まで見たこともないような無邪気で可愛らしい天使のような笑顔。 見ていて癒やされる、眩しいほどの子どもらしい笑み。 「・・・へ?」 「・・・―――っ可愛いーー!!沢田くんの家って、みんな顔の良い家系なの!?めちゃくちゃ可愛いー!!!」 リボーンの顔に免疫のない少女は、一発でその笑顔に落ちたらしい。 幽霊か何かを見たような表情の綱吉に気付かないまま、リボーンを抱き締めそうな勢いでそう叫んだ。 「え、えぇっと・・・」 それは本当にあの鬼畜横暴かつ凶暴な家庭教師様でしょうか。 綱吉は、子どもの予想外のリアクションに呆然としながら、必死で思考を回転させる。 だが当のリボーンは、混乱する綱吉のズボンを小さな手で握ると、無邪気な笑顔と子どもらしい幼気な口調で言葉を紡いだ。 「ツナおにーちゃん、奈々おかーさんがおつかいしてきてって、言ってたぞ?」 きゅるん、と音がしそうなくらいつぶらな瞳で見上げられ、不覚にも綱吉もぐらりと来たのだが、必死でそれを堪えて笑顔を浮かべる。 「そっか、ありがとうなーリボーン。じゃあ、お兄ちゃんと一緒にお遣い行こうか(お前一体何企んでやがるんだ)」 「うん!(うっせーぞダメツナ)」 端から見れば大変微笑ましいだろうが、お互いの内心なんてそんなものである。 もちろん、二人の心の声が聞こえなかった少女は、仲の良い二人の姿に笑顔を浮かべて、別れを告げるとそのまま歩いて行ってしまった。 少女の後ろ姿が小さくなっていくのを見送って、綱吉はくるりと振り返ると、未だに愛らしい笑顔を浮かべたままのリボーンと向き合う。 「―――で、どうしてそんなに機嫌が悪いの、リボーン」 腰を屈めて目を合わせれば、リボーンの黒曜石の瞳が微塵も笑っていないのがわかる。 むしろ、烈火のごとく怒っているようだ。 「ふん」 けれど、可愛い可愛い家庭教師様は、不機嫌そうに鼻を鳴らして顔を背けてしまう。 「俺、なんかお前の気に障るようなことした?」 最近、リボーンは理不尽なことでは怒らなくなった。 だからこそ、これほど子どもが拗ねている理由が気になる。 地面に片膝を着いて、小さな手をあやすように握れば、ギッと殺気立った瞳が綱吉に向けられた。 「・・・じゃねーか」 「ん?」 「随分モテるようになったじゃねーか、ダメツナ」 「え、そうかなぁ?」 確かに、帰り道にクラスの女子などから何かしら誘いを受けることは多くなったが―――綱吉はその殆どを断っている。 家にいる子ども達が気がかりだからだ。 だから気付かない。 自分を誘っている少女達の目的など。 だからリボーンは苛立つのだ。 媚びるような、甘くとろけた瞳で綱吉を見ている少女達に。 そんな視線に全く気付かない鈍い教え子に。 綱吉は確かに中学時代に比べれば見違えるほどに成長した。 外面的にも、内面的にも、強く、しっかりと。 いずれ強大な組織を纏める人間としての自覚が芽生え、体の芯がピシリと伸びた。 母親譲りの甘い顔立ちと、父親まではいかないにしても伸びた身長、そして元々持っていた、誰にでも公平に優しい性格。 これでモテない方がおかしい、ということは、リボーンだって知っている。 だが同時に思うのだ。 お前達に綱吉の何がわかると。 コイツは俺が見つけて、俺が育てたんだ。 俺のモノを、そんな目で見るな。 コイツは俺のだ! 沸き上がる独占欲は、いつか置いていかれるのではないかという怯えにも似ていて。 それが余計にリボーンを苛立たせる。 綱吉は、キリッと唇を噛み締めるリボーンの様子に、しばらく途方に暮れたように考え込んで―――やがて思いついたように頷くと子どもの身体を抱き上げた。 今年で4歳になる子どもの身体は、あっさりと腕の中に収まる。 想定外の行動にキョトンとしている子どもの表情が可愛くて、綱吉は思わず―――相手がリボーンだと言うことも忘れて―――柔らかな頬に頬擦りをした。 「リボーン、大丈夫、俺はお前の傍にいるから」 そんなに不安そうな顔をしなくても、お前を置いていったりしないよ。 暖かい綱吉の腕に包まれて、リボーンは不覚にも安堵してしまった。 だから、照れ隠しのように、綱吉の成長途中の骨張った肩に顔を押しつける。 「ふん、あたりめーだ、ダメツナ。お前は、俺の教え子なんだからな」 「うんそうだね、リボーン。だから、お前も俺から離れちゃダメだよ」 「―――ぁぁ」 お前は俺の可愛い家庭教師様なんだから、さ。 腕に抱いた可愛い子どもの、小さな、小さな肯定に、綱吉は頬を緩めて家路を辿ることにした。 その夜。 「―――にしても、結局リボーンは何に怒ってたの?」 「あぁ?」 風呂上がりに冷たい牛乳を飲んでいた綱吉は、ふと思い出したように、先にベッドに潜り込んでいる子どもに声をかけた。 ―――余談だが、最近ハンモックが狭くなったリボーンは、奈々が注文した子供用のベッドが届くまで綱吉と一緒のベッドで眠っている。 綱吉の問いに、すでに眠りかけていた子どもは不機嫌そうな返事を返した。 「だって、あんなにキラキラ笑顔を振りまくくらいキレてたんだろ?」 あんなリボーンの笑顔、俺だって見たこと無かったよ。 そう言って苦笑すれば、偉そうな子どもの偉そうな言葉が投げつけられる。 「一丁前にヤキモチでも妬いたのか?」 「はぁ?ヤキモチぃ?」 むしろ、お前が何を企んでいるのかと思って冷や冷やしましたが。 賢明にも、心の中だけでつぶやいて、綱吉は自分のベッドに入ってリモコンで電気を消した。 暗くなった部屋には、カーテンの隙間から差し込む月の光と、ベッドに横になっていた子どもの暖かな体温だけがある。 その闇の中で、綱吉はポツンと呟いた。 「ヤキモチ、ねぇ・・・お前、もしかして・・・」 「寝る」 「もしかしてリボーン・・・」 「寝るっつってんだろーが」 ヤキモチ妬いたんだ? 綱吉の言葉は、音になる前にリボーンが綱吉の口に突っ込んだ銃口の中に消えた。 高校生になって、勉強が楽しいと思えなくもないような気がしてきて、友達も増えて―――女の子にモテるようにもなった。 言わずもがなであるが、綱吉がそういう風になったのは、厳しく可愛い家庭教師の育てた成果。 だから、そんな俺に寄ってくる人間に、ヤキモチなんて妬くのは・・・ 自業自得ってヤツじゃないのか? 「You asked for it ! 」 眠りに落ちる間際に教え子が呟いた台詞に、リボーンの秀麗な眉が盛大に顰められたが、すでにその時綱吉は夢の世界の住人になっていた―――。 Fin. 10000Hitありがとうございました!そして、リクして下さったさゆま様、ありがとうございます!! 嫉妬するリボ様って・・・意外と書くの難しいんですね・・・!orz自分の文章力のなさに泣けてきました。。。 さゆま様のみお持ち帰り自由とさせていただきます。 Back |