Perche Lei e ostinato.


ここ最近、大きな抗争や、それに伴う人事異動、同盟の再編などで慌ただしく、ボンゴレファミリーの主要幹部達は寝る暇もない状態だった。

もちろん、ファミリーの全権を掌握している綱吉は言うまでもなく、秒刻みで増えていく書類の山にそろそろその身が覆い隠されてしまいそうである。



「えーっと、これは情報班の案件だからハルに回して。こっちはーああ、アメリカ方面だね。・・・ん?今のアメリカの総責任者って・・・山本でしたっけ?」
「違う、この間の抗争でカルッサーニに変わったよ。山本は今、アジア担当」
「ああ、そうだった!それで、了平さんがアジアから外れて機動部隊の総指揮になったんでしたね。だから機動部隊の書類が無いのかー」
「無いのかーって、納得してる場合じゃないでしょ。いい加減、笹川に書類を作れるようになって貰わないと困るんだけど。予算が組めないんだよ」
「いや、でも、あの人、書類作らせたら最終的に「極限だった」しか書かないし・・・。
まあ、予算は雲雀さんの出した概算値で過不足なくやってるみたいですし」
「はぁ・・・綱吉は本当に部下に甘いね」
「あ、でも、さすがに、機動部隊の編成関連に関しては出してくれるようになりましたよ」
「当たり前でしょ。じゃないと、給料配当どころか抗争時の死亡者リストだって作れない」
「ですよねぇ。・・・って、ことで、この書類はカルッサーニ行きですね。それでアジア関係はー・・・」

白い書類が築き上げた山に囲まれて、綱吉の格闘は今日も続く。




そんな主人の格闘を、彼にだけ許された場所である綱吉の背後から眺めながら、リボーンは黙々と愛銃を磨いていた。

彼はドン・ボンゴレの専属護衛兼ヒットマンであって、基本的にボンゴレ内部に干渉する立場の人間ではない。

だが、主人である綱吉がこの執務室にいて、なにか別の任務を指示されていない以上、リボーンの仕事場もまたこの執務なのである。
とはいえ、ここは、仮にも世界有数の規模を誇るボンゴレ・ファミリーの中枢、しかも、ボンゴレの支配者の居室。
滅多なことでは、リボーンの仕事なぞ転がり込んでは来ない。

というわけで、することはないがこの部屋から出ることもできない、そんな状況がもう2週間続いていた。


―――暇。リボーンの現状を表すならその一言に尽きる。


いつもならば、雲雀が席を外した瞬間、綱吉は仕事に飽きてリボーンを構いたがるのだが、今回ばかりはそうもいかないらしく、
書類を処理して、気を失うようにソファで仮眠を取って、再び仕事を再開する、という流れを繰り返していた。

眠る時、リボーンを側に呼んで手を繋ぎたがるのはいつも通りなのだが。


もちろん、幼いながらにプライドの高いヒットマンが、構って欲しいなんて言えるわけがない。



完全に仕事にかまけている綱吉は、そんなリボーンに気付いてやれるほどの余裕を持っていないが、その横で綱吉の補佐をしている雲雀は、死神の珍しい人間味ある苛立ちを面白がっていた。

赤ん坊も成長したってことかな。

もしも綱吉が、リボーンが構って欲しがっていることに気付いたら、それはそれは喜ぶだろう。
何しろ、彼はリボーンのことを息子のように慈しんで可愛がっているのだから。
きっとリボーンの人間的な成長を一番楽しみにしている。

だが、雲雀としても、敵にわざわざ塩を送ってやるつもりもないので、この怒濤の書類決裁の波が静まるまでは綱吉を独占することにした。




そうして、書類の山に追い立てられて1ヶ月が過ぎ去って、一日に処理する書類の量が平時並に戻った頃。

綱吉が朝から深刻な顔をして雲雀の部屋へとやって来た。
そろそろ来る頃かと思っていた雲雀が、綱吉を部屋へと招き入れると、彼の上司は、この世の終わりが来たかのような声で、話し始めた。

「リボーンが・・・冷たいんです・・・」
「それはいつものことでしょ」
「いや、なんていうか・・・その、いつものとは違う冷たさっていうか・・・」
「ふうん」
「話しかけたら応えてくれるんですけど、なんか違うんですよ・・・目を合わせてくれないし」

これは、完全にヘソを曲げたみたいだね。
しょぼんとした綱吉の話を聞きながら、雲雀は肩をすくめた。

「綱吉、リボーンだって成長するんだよ」
「へ?ええ、だって、あいつ、10歳の癖にもう俺の胸当たりまで身長が・・・」
「体だけじゃなくて、人間的にも、って意味なんだけど」
「・・・人間的にも、ですか」

あまりにもリボーンの非人間的な面を見てきたせいか、綱吉の思考回路の中でリボーンと人間らしさが簡単には結びつかないらしい。
リボーンの日頃の行いの賜である。

「ま、あの意地っ張りな赤ん坊が、そうそう素直に言うとも思えないけど・・・。
綱吉、これは自分で考えて結論を出さなきゃいけない問題だよ。自分で考えるんだね」

僕は子育て相談には向いてないよ、と言って、雲雀は綱吉を部屋から放りだした。

「子育てって・・・いや、まあ、確かに子育てといえば子育てだけど・・・」



リボーンが成長している。
それはそうだろう。
身長は憎らしいほど伸び続けているし、声変わりなんていつしたのかわからないくらい自然に低くなっていた。

では雲雀の言う、人間的な成長とは?


確かに、リボーンは柔らかくなった。
優しくなったと言えば言い過ぎになるが、丸くなったと言っても間違いではないだろう。
たぶん、少し人間くさくなった、というのが一番正しい。

・・・人間くさくなった、ねぇ?

俺は何を言ってるんだろう。
リボーンは初めから人間だったって、知っているはずなのに。
リボーンだって、痛い時は痛いだろうし、苦しい時は苦しいんだって、一番よく知っていたはずなのに。

「ああ、あいつ、もしかして」
しばらく忙しくて構わなかったから、拗ねてる?



その日の午後。
綱吉は不意に執務の手を止めて、椅子を180度回した。

「リボーン」

彼の呼びかけに応えて、リボーンが顔を上げる。
だが、漆黒の瞳は綱吉の瞳に向き合うことはない。
綱吉は特にそれを気にせずに、にこりと笑ってリボーンの手を掴むと、くいっと引っ張って自分の膝の上に座らせた。
予想外の行動に、リボーンの体は、綱吉の促すままになってしまう。

「・・・なにしやがるダメツナ、殺されてぇのか」

綱吉の膝に座るような格好のまま、リボーンは憮然とした表情で上司の眉間に銃口を向けた。
けれど、膝の上から降りる気配はない。
自分の考えが意外と自惚れではないのかもしれないことを知り、綱吉の顔が緩んだ。
その、マフィアの帝王とは思えないにこやかな笑顔に、リボーンは一瞬だけその白皙の頬に赤みをさした。

「なんだその間抜け面・・・っ」

そして、リボーンの抗議が終わらないうちに、まだ自分よりも小柄な少年を抱きしめて、しみじみと呟く。
まだ抱きしめられるが、その腕の中の体は、確かに日を追う事に大きくなっていた。

「そういえばそうだねぇ」
「なにが!」
「んー?こうやってリボーン構うの久しぶりだなぁって思って」
「・・・」
「最近忙しかったからね。ちょっと俺、リボーンとゆっくりしたくなったんだけど・・・いい?」

意地っ張りな息子のお伺いをたてれば、向けられていた銃口が静かに下げられ、不本意そうに顔が背けられた。
それを了承と受け取って、綱吉は満面の笑みを浮かべながらリボーンの帽子をレオンごと机の上に置き、優しい手つきで黒い絹糸のような髪を撫でてやる。

「っち、仕方がねぇボスだぜ」
「うん、そうだね。・・・リボーン、お前も大きくなっていくんだなぁ」
「・・・」

お父さんは嬉しいよ、という失言が綱吉の喉元辺りで押しとどめられたことは、ゆったりとした時間を楽しむ上で双方に良いことであった。



Perche Lei e ostinato.
君は意地っ張りだから。


fin.


リボがリボじゃない・・・(いつものことです)。
リボは、意地っ張りで素直になれないくて、しょっちゅう心の中で悶々としていればいい。
虹ツナのツナは、父性愛全開で虹っ子達を可愛がっていると思います。
でも、虹っ子たちはバリバリの全力投球でツナに恋しているんです。


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