それは魂の叫びだった。

「もう眠い」

ぱしゅっと、軽い音を立てて後ろから飛んできた鉛玉を避けながら、色素の薄い髪の青年は同じ言葉を繰り返した。

「もう眠い」

今度は、無言のウチに踵が蹴り落とされてきたので、座っていた椅子を回して横に避ける。

「ふがっ」

が、垂直に高速落下したはずの足は、人間が行うには不可能と思われる動きによって途中で軌道修正され、水平に薙いで青年の顔面に正確にヒットした。

「い、痛ひ・・・」
「ふん、くだんねーこと言ってねーで、手ぇ動かせ手」
「だって、だって―――」

青年が、大きな琥珀色の瞳を潤ませて見上げた先には、出窓に尊大な態度で腰掛ける美しい少年が居た。

「だって、ネタがないんだよ―――!」




Fiaba




大きな山の麓にある小さな町。
そこは、煉瓦造りの町並みが並ぶ、本当に小さな町でした。
そんな町の外れにある小高い丘の上には、一人の小説家と、三人の息子が住んでいます。

一人は、ふわふわとした色素の薄い髪に、柔和な琥珀色の瞳をした父親 綱吉
一人は、真っ黒な髪と瞳に、くるんと巻いたもみ上げが特徴的な長男 リボーン。
一人は、町では珍しい、太陽の光を集めたような金髪に、印象的な青玉の瞳の次男 コロネロ。
一人は、いつもヘルメットをかぶって、顔を見せようとしない三男 スカル。

それぞれ全く異なった容姿の家族です。
息子達の母親は誰も知りません。
町の意地悪な人は、この家族のことを偽物家族と呼んだりしていました。

けれど、4人は仲良く暮らしていたのです。



今日も今日とて、丘の上の家からはにぎやかな声が聞こえてきます。

「わーちょっと待ってリボーン!!!そんなに銃器を頻繁に構えないでよ!!!ぎゃー!!」
「うるせぇーダメツナの分際で俺の弾を避けやがって。次は絶対当てる」
「当てたら死ぬって!!!!確実に!!!!ゲンミツに!!!!」
「・・・人様の作品の台詞を使うなんて、てめぇには作家としてのプライドがねぇのか!!」
「タジマ君は良いヤツだろ!?おわーっ軽く死んじゃう!!死んじゃうってーーー!!」
「どうせなら重く死ね」

にっこりと、それはそれは美しい息子の浮かべた笑顔に、お父さんは一瞬状況を忘れそうになりましたが、頬を掠った鉛玉にはっとしました。
焦げ臭い煙を上げている、黒くてまあるい鉄の筒が、ちょうど眉間に向いていたからです。

「死ね」

「おとーさん、リボーン先輩、ご飯、できました」

リボーンが指を曲げきる前に、部屋の扉が開いて、ひょこりとヘルメットがのぞきました。
今日のお料理当番のスカルです。

「あ、スカルー!!」

お父さんは三男坊の登場でできた隙をついて、扉の所まで行くと、未だにこちらを睨んでくる長男に声をかけました。

「リボーン、ご飯だよ、行こう」
「・・・っち」

拗ねたような舌打ちに苦笑しながら、お父さんは一足先にスカルと一緒に階段を下りて、食堂へ行きました。
そこには、次男のコロネロが席について待っています。

「おせーぞコラ」
「ごめんね、ちょっと色々あって」
「ふん」
「コロネロ先輩、ご飯、これくらいで良いですか?」
「おう」

どんぶり大盛りにつがれたご飯のおかげで、取り敢えずコロネロの機嫌がこれ以上悪くなることはないようでした。

スカルは、いつも絶妙なタイミングでお父さんを助けてくれるのです。
気の利く息子に感謝しながら、お父さんはスカルに話しかけました。

「ねぇスカル、やっぱり、その“先輩”っていうのはやめない?」
「でも、もう習慣なので」
「俺のことは“おとーさん”って呼んでくれるだろ?」
「それは・・・」


「別にいーじゃねぇか。ホンモノの家族じゃねーんだから」


食堂に、リボーンの声が響きました。

「リボーン・・・」
「お前が言ったんだろ、あの日。“家族ごっこをしよう”って」




昔―――と言っても、1年と少し前のお話です。

この町があるボンゴレ王国とお隣の国は戦争をしていました。
それは、“アルコバレーノ”と呼ばれる、不思議な力を持った子供たちを巡っての戦争でした。

お父さんは、その頃まだ“お父さん”ではなくて、この国の王様の血を引く将軍の“弟君”として、大きなお屋敷にたくさんの召使いに囲まれて生活していました。
お兄さんであるザンザス将軍は、少し体の弱い腹違いの弟君をとても大切に思っていて、お仕事で忙しくても一日に一回は必ず弟君に会いに行くほどでした。
弟君も、強くて頭が良くて優しい将軍が大好きでした。


そんなある日のことです。
散歩が好きな弟君が、お屋敷から出て、お城の小さな花園を歩いていました。
すると、どこからか小さな話し声が聞こえてきました。

不思議に思って周りを見回してみると、花壇に隠れた花園の塀が少し壊れています。
どうやら、その声の主達は、塀の向こうにいるようでした。

少し気になった弟君は、その壊れたところから塀を潜ることにしました。
幸い、弟君は小柄だったので、小さな穴を潜ることが出来ました。

塀の向こう側も、先ほどの花園と同じように、たくさんの草花が植えられた美しいところでした。
けれど、違うところが3つありました。
まず、真ん中の小さな泉に澄んだ水がわき出ていること。
そして、3つの小さなベッドが、その泉を囲むように置かれていること。
最後に、内側から見ると、ここは鉄柵で覆われた頑丈な鳥籠のようになっていること。

『ここは・・・?』

あまりにも不思議な光景に弟君が首を傾げるのと、その華奢な首に大きな刃物が当てられるのは、殆ど同時でした。
前には、真っ黒な髪の男の子が、茶色い短髪の男の子を庇いながらこちらを睨めつけてきています。

けれど、やがて、ビックリしたまま動けない弟君に呆れたのか、弟君に刃物を向けていた男の子が手を引きました。

『てめぇ、何者だコラ。ここに入れるってことは、王家の連中か』
『え、ええっと、俺は綱吉って言います』
『ツナヨシ・・・あのザンザスの弟じゃねぇーか』

真っ黒な髪の毛の男の子がそう呟くのと同時に、さっきよりも殺気が膨らんで、弟君はその殺気に耐えられなくなって気を失ってしまいました。

次に目を覚ますと、先ほどと同じ鳥籠のような庭でしたが、木陰に寝かされています。
先ほどまでのことが夢なのか、本当のことなのかよく判らないまま身を起こすと、ゴスリと言う音ともに頭に強い衝撃を受けました。
初めて味わう痛さに思わず涙目になりながら、頭に蹴りを入れた男の子を見遣りました。

『なに、するんだよ・・・』
『ふん』

そのあまりにも情けない様子に、黒髪の男の子は馬鹿にしたように鼻を鳴らして、踵を返してしまいました。
男の子が歩いていく先を見れば、先ほどの金髪の男の子と、茶髪の男の子が石造りのベンチに座ってこちらを見ています。

これが、弟君と“アルコバレーノ”と呼ばれる子供たちの出会いでした。




それから1年と少し経って、お城がある首都から遠く離れた小さな町で、“弟君”は“お父さん”になり、“男の子”達は“息子”達になりました。

戦争の理由だった“アルコバレーノ”が居なくなってしまったので、戦争は一時休戦となり、今は消えた“アルコバレーノ”探しのために二つの国の間で協定さえ結ばれています。
また、風の噂によれば、ザンザス将軍は、消えた弟君を血眼になって探しているそうです。

だから、お父さん達は同じところに3ヶ月以上暮らしたことはありませんでした。
でも、あんまりにもこの町の居心地が良かったので、ついつい長居をし過ぎたようです。




夜更けに、丘の上の家の扉を叩く人影がありました。
月のない晩なのに、月光のような銀色の光を放つ、長い髪の長身の男が尋ねてきたのです。
それを二階の窓から見ていたお父さんは、とても驚いて、そして同時に、とても切なそうな、何かを堪える呟きを漏らしました。

「スクアーロ・・・なんであなたが・・・っ」


fin.


童話口調は難しい・・・orz
思いつきで書いたので、やたら尻切れトンボです。
続きは・・・気が向いたら書き・・・ますかねぇ?


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