お届け物です。


「ねぇ、山本。パードレって、あ、もしかしたらパドレかな・・・って、どういう意味?」

カタカタと、休み明けにある研究会のプレゼン原稿をパソコンに打ち込んでいた綱吉は、思いついたようにそう尋ねた。

昼の光が差し込む山本の部屋。
部屋の主である山本は、綱吉と向かい合って、プレゼンのデータ分析に使う統計データを分類している最中だった。
縁なしの眼鏡をかけた山本は、僅かに視線をパソコンからずらして、レンズ越しに綱吉を見る。

「パードレ?・・・ツナって、第二外国語、イタ語だったっけ?」
「いや、無難にドイ語だけど」
「だよな、イタ語は出席とって、中間テストやる上に授業の度にskit(寸劇)やらせるから、面倒って有名だったし」
「うん。先輩から、必修で忙しい1年の間は止めておいた方が良いって言われたから、真っ先に選択から外した」
「たしかに、イタ語とってた田島とかテスト前に死にそうになってたしな」
「そうそう。俺、英語だけでも手一杯だったからさ、イタ語とかとってたら、今頃確実に死んでたよ」
「そうなー。まあ、ツナが聞いてるパードレが、イタ語のパードレなら、綴りは“padre”。神父とか、お父さんとかって意味の単語だな」

そう答えた山本の言葉に、綱吉の顔が一瞬引きつって、唇から溜め息が漏れた。

「神父・・・って、どんな目で俺を見てるんだアイツら」
「何言ってんだツナ?」
「あ、いや、なんでもない。そっか、ありがとう」

最近見ることの多くなった、誤魔化すために振られる掌を見て、山本は珍しく苦笑しながら眼鏡を外す。
微かに視界がぼやけ、しばらくパソコンの画面を見ていたせいか、瞼が重い。
軽く目頭を揉んだ後、再びツナを見遣れば、先ほどの質問のことなど忘れたかのように、パソコンを見ていた。

「ツナ、少し休憩しようぜ」
「へ?」
「ほら、殆ど統計データの分別も終わったし、あとは分析にかけちまえば俺たちの分担は終わるだろ?」
「あ、そっか。そういえば、分担したんだったね」
「そうだぞ。なんだ、忘れてたのか?」

勉強嫌いな癖に、変に凝るタイプだよなーお前って。

そう言って、笑いながらお茶を取りに行ってくれた幼なじみを見送って、綱吉は溜め息をついて机に突っ伏した。




コロネロが家に来て1週間。 部屋はさらに子供たちのための道具に占拠されていき、今や綱吉の私物は部屋の3分の1にまで後退していた。 しかも、リボーンとコロネロのじゃれ合いが激しいために、足の踏み場が消えつつある。
せめてもの救いは、綱吉の部屋が1階の角にあって、かつ、隣の部屋が空き部屋だったことくらいか。

そんなことは、この際どうでも良いのだが。

なによりも問題なのは、一体この状況をどうやって打開したらよいのか、皆目見当が付かないことである。
リボーンもコロネロも、綱吉に会いに来た、とは答えても、何故会いに来たのかを話さない。
というよりも、話したくないようだ―――それはブレインたちの仕事で自分達の役目ではない、と言い切って。 ブレインってなんだ、という綱吉の問いには、ヘナチョコと爆弾馬鹿と変態、という何とも頭の痛い返答が返ってくるばかりで、行き先には何の光も見えない。

「こんな時に限って、あのダメ親父は音信不通だし・・・」
「なんだ、また親父さん居なくなっちまったのか?」

独り言になるはずだった言葉に、突然背後から返事を返されて、綱吉はびくりと後ろを振り返った。
ちょうど、片手に麦茶とお菓子の乗ったお盆を持った山本が、扉を開けたところで。

「うわっ山本!ビックリしたー」
「はは、お前の反応に、俺の方が驚いたっつーの」

からからと笑いながら、机の上にお盆を乗せて、自分の座っていた場所に座り直すと、琥珀色の瞳に視線を合わせる。

「で?そろそろ、俺に話す気になったか、ツナ?」
「えーっと・・・山本?」

口も目も笑っているのに、幼なじみの言葉には、もう誤魔化されてやらないぞという確固たる響きがあった。
それを受けて、綱吉はしばらく口籠もって、視線をあらぬ方向に飛ばしたりしたが、やがて諦めたように溜め息をついて再び机に突っ伏す。
その色素の薄い髪をぐしゃりと撫でて、山本は無言で促した。

―――自分の行動の結果、厄介事に巻き込まれることになっても、綱吉が困っているのならどうにかしてやりたい、という思いの方が強かったのだから、この先にあった“厄介事”で迷惑を被っても、山本は特に後悔はしなかった。

ポツポツと幼馴染みの口から語られた話は、ウィザード5大家に属している山本にとって、俄には信じがたいもの。
けれど、綱吉の様子から、嘘をついている気配はない。 なにより、“ヒトガタ”についての情報は、今のところウィザードの間でもほんの一握りしか知り得ないものであるはずだった。
山本だとて、家を訪れた雲雀家の当主から聞かされるまで、その存在を知らなかったのだから。

黙り込んでしまった幼なじみの様子をどう捉えたのか、綱吉は慌てたように自分の顔の前で手を振った。

「―――山本・・・?そ、その、やっぱ変な話だよな!!うん、そう、だから、今のは忘れて・・・」
「大丈夫だって。ツナの話ならどんな話でも信じるぜ?俺は」
「山本・・・」

幼い時から変わらない、大きな飴みたいな瞳を見開いてこちらを見てくる綱吉に、山本は苦笑した。

お前は、昔から馬鹿みたいに俺を信じてくれたから。
日常の世界で異端だったウィザードの俺を、無邪気に受け入れてくれたから。

そんなお前を、俺が信じないわけにはいかないだろ?

雲雀家の分家とはいえ、山本家は日本ウィザード御三家の一つである。
その山本家の嫡子である武は、本来ならば、公立の小学校ではなく、ウィザードの子弟達が通う専門の私立に通うはずだった。
けれど、山本はそれを嫌がり公立へ進むことを強く希望した。
普段我が儘を言わない息子の要望に、息子に甘い山本家の当主は、家庭教師をつけることを条件に公立小学校への入学を許可して、その結果、現在に至っている。

ウィザードでもウィザードの血が薄い家の子どもが公立に通うことは珍しくないが、雲雀家に血筋的に最も近い分家の子どもが公立に通うことは珍しいどころか有り得ないことであった。
だから、入学当初、山本は完全な異端児扱いで。
更に言えば、公立小学校の授業など、ウィザードの山本にしてみれば、保育園児のおままごとみたいな稚拙なものでしかなかった。

そんなことくらい、入学前の予想の範疇である。
それでも、山本が公立小学校に入学したいと思ったのは。

弱虫で泣き虫で、ドジで間の抜けた、でも、優しくて暖かい幼なじみが心配だったから。
もっと、頼りない弟のような幼なじみの側にいてやりたかったから。

そしてやはり、入学した小学校で綱吉は山本の予想通り最高のダメライフを送り始め、それをフォローするために立ち回っている間に、気付けば山本はクラスの人気者になっていた。

「・・・俺も、ついこの間従兄に聞いたぜ、その“ヒトガタ”の話。詳しいことまでは聞いてないけど、多分、今週末に公式発表されるんだってさ。代替マンパワーとして」
「そう、なんだ?」
「おう。・・・で、疑似人格を与えられた“ヒトガタ”は、自分を所有するオーナーを“titolare”って呼ぶらしいけど、お前の所のはお前を“padre”って呼ぶんだよな?」
「うん。ちなみに、そのティトラーレって?」

山本の持ってきたお菓子を摘みながら、綱吉は聞き慣れない単語に首を傾げた。

「イタリア語で所有者、とか、名義人とかって意味だな。サッカーでは正選手とかって意味もある」
「ふうん?」

では、少なくとも、あの子供たちは自分を主人とは思っていないらしい、ということになる。
その情報に、ほっと綱吉の肩から少しだけ力が抜けた。
―――世界最高峰の技術力の結晶の所有者になる器など、ダメライフを満喫している自分にありはしないと、知っている。

だからこそ怖かった、想像も付かないような世界に放り出されることが。

「・・・なあ、ツナ」
「ん?」
「俺の従兄に聞いてみるか?」

尋ねられた内容に。綱吉の動きが―――というようりも、生命活動そのものが一瞬の間止まった。
この臆病者の幼なじみには、あの冷徹な日本ウィザードの総領という存在はインパクトがありすぎるらしい。
なんとか平静を保とうと紡がれた言葉は、可哀想な位に震えている。

「・・・い、従兄って・・・あの・・・」
「おう、ちょっと扱いが難しくて、人間として悪いヤツじゃないと断言出来ないけど、頭は悪くないぜ」
「・・・えええええ遠慮したい、デス」

カクカクと高速で首を振りながら、綱吉は全力でそう言った。
確かに、世界のウィザード五大家の一つを取り纏めている彼ならば、綱吉にとって有力な情報を持っていそうだが、その情報を得るためには数多の困難が待ち受けている気がする。
主に綱吉のメンタル面で。



そうこうしているうちに、夕暮れが迫って来た。
今頃、絵画から抜け出てきたかのような容姿をした小さな悪魔達が、部屋で外見に似合わない乱暴な口調で“腹が減った”と騒いでいるだろう。

「・・・山本、俺そろそろ帰るよ」
「ん、そっか。・・・じゃあ、またな。何かあったらすぐに言うんだぞ?」

まるで弟に言い聞かせるかのような幼なじみの口調に笑って、綱吉は夕日を背にして山本の家を後にした。
溜め込んでいたことを話したせいか、何も問題は解決していないというのに、少しだけ心が軽くなったようだ。




そうして、日常のテンションに戻りつつあった綱吉を、再び脱力と共に床に沈めたのは、自分の部屋の扉を開けた瞬間に視界に入った、目の覚めるような美しい顔立ちの、蜂蜜色の髪をした青年の姿だった。

―――どちら様ですか。

そう口走ったのが先か、いったん部屋の扉を閉めて、

―――誰だ今の。

と呟いたのが先か、混乱した頭では判然としないけれど、一つだけはっきりしたことがある。

非日常が易々と綱吉のテリトリーに入れぬよう、オートロックのあるマンションに引っ越したほうが良さそうだ。



そもそも綱吉の部屋は、一人暮らしのための10畳のワンルームなわけで。

誰がどう考えても、例え構成員に子どもが含まれていたとしても、4人の人間が座っていれば必然的に狭くなるのは当然で。
決して、年端もいかぬ天使のような容貌の子どもに、乱暴な口調で狭いと不満を言われる謂われはない。

―――と、思うのは俺だけなのか?

無断で部屋に上がった美丈夫に何故か遠慮をしてソファを譲り、半日家を空けたので寂しかったらしい子どもに両サイドから無言で懐かれ、その形の良い頭を撫でているために身動きの出来ない状態で正座しながら、綱吉は何度目かになる自問を繰り返した。
ちなみに、先ほどから綱吉の膝を半分ずつ枕として使用しているリボーンとコロネロは、頭を撫でられるのが気持ちよかったのか、瞼を下ろして眠る準備を始めている。

そんな様子が微笑ましいらしく、ソファに腰掛けた美丈夫は、その口元に笑みを浮かべながら、闊達な光の浮かぶ蜂蜜色の瞳を綱吉の琥珀色の瞳に合わせた。

「そいつら、良く懐いているな」
「はあ・・・そうですか」

未だに思考回路が上手く回らぬ綱吉は、気のない返事をしながら目の前の人物を観察する。

取り敢えず、日本人ではないと言うことと、かなりの美形だと言うことは間違いない。
そして、ラフな軽装をしているとは言え、その立ち居振る舞いからして一般階級とは考えにくい。
というか、この“ヒトガタ”関係者である以上、一般人である線は悲しいほどに薄いであろう。

だが―――少なくとも、様々な制約をかけられた“ヒトガタ”ではなく、自分の意思で喋ることの出来る“人間”であることは間違いなさそうだ。

「あの・・・あなたは・・・?」
「俺?俺はディーノ。ボンゴレファミリーの分家、キャバッローネファミリーの当主だ」

特に何かを隠す様子もなく、美丈夫は拍子抜けするほどあっさりと、一般人の綱吉が耳慣れぬ身分を明かす。

ウィザード五大家、ボンゴレファミリーの3つの分家の1つキャバッローネファミリー。
そのキャバッローネを束ねるディーノは、主家であるボンゴレの次期当主の顔を見に来たのだという。

―――何のどっきり番組だ。カメラどこカメラ。

綱吉の内心でそんな言葉が渦巻いていることに気付かないまま、ディーノは満足げに綱吉と子供たちを見て、形の良い唇から、耳あたりの良い声を発した。

「ま、そいつらの懐き様からして、お前が10代目で間違いねぇんだろうな」

―――いっそ何かの間違いであれ。

綱吉の心の底からの切実な声は、残念なことに、またしても本人の胸中で響いただけだった。

リボーンやコロネロの顔見知りで、ボンゴレの関係者で、膝の上の子供たちが警戒を示さないと言うことは、彼の口にした彼自身の身分は本物なのだろう。
ならば、今が、リボーンが初日に言っていた“物事の時機”というやつなのではないか。 そう思って、綱吉は蜂蜜色の瞳をしっかりと見据えて口を開いた。

「ええっと、ディーノさん、一体どういう手違いで、その・・・俺なんかがボンゴレの10代目なんていう誤解が生じているのかがさっぱり分からないんですが・・・。―――良ければ説明して欲しいです」

未だに、膝の上の頭を撫でる手を止めないままそう聞いてくる少年に、ディーノは口元の笑みを更に深くする。
「そうか、そいつらはまだ話してないのか。・・・まあ、家光も話し辛いだろう。―――いいぜ、ボンゴレ10代目。俺とお前の仲だ、俺の教えられる範囲で教えてやるよ。残念だが、他の話は他のブレインに聞いてくれ」
―――どんな仲だ、どんな。
というか・・・。

「ブレイン・・・って、誰ですか?他の分家の当主さんですか?」
「ん・・・?ああ、そうだ。ボンゴレの分家の当主は“ブレイン”って呼ばれるんだ。その辺は、俺だけの判断じゃ今のお前に話せない」
「はぁ・・・」

ディーノの言葉に多少引っ掛かりつつ、綱吉は静かに頷いた。
現段階において、自分の日常生活と殆ど関わりがないと思える情報を聞くより、自分のこれからに関わりそうな情報を聞くことが最優先である。

「そうか・・・まあ、コイツらから聞いていると思うが、お前は―――ツナは、ボンゴレファミリーの10代目当主なわけだ。・・・そう嫌そうな顔するなって、仕方ないだろ、そう言う血筋なんだから」
「でも、俺はウィザードじゃありません」
「まぁな、親父さんが初代の親戚の家系の人間ではあるが・・・な」 「そんな・・・もうずっと前の話ですよ、この家がウィザードでなくなってから。それに―――」
生まれながらの莫大な知識も、飛び抜けた身体能力も、綱吉は持っていない。

やや憮然とした表情になった次期当主を見下ろして、ディーノは数瞬考えた後、ソファから降りて綱吉の前に胡座をかいた。
そして、語りかけるように静かな口調で話し出す。

「なあ、ツナ。お前が―――いや、お前だけじゃなく、世間一般の人間が知っているウィザードの定義は、ウィザードの狭義でしかないって知ってるか?」
「狭義?」
「確かに、ウィザードと呼ばれる人間の多くは、血を媒介に脈々と受け継がれてきた膨大な知識や、遺伝的突然変異による異常なまでの身体能力を持っている。だがな、それだけなら、“魔法使い”なんて呼ぶ必要はないだろう?」
「それだけって・・・十分凄いことだと思いますけど。だって、ウィザードって、天才って意味でしょう?」
「そうだな。―――でも、ウィザードの能力が秀でてれば秀でてるだけ、他の特化能力なんてものは失われていくんだ」
「は?」

意外というか、想像もしなかったディーノの言葉に、綱吉は思わず間の抜けた声を出す。
ウィザードとは、さまざまな点において人間とはかけ離れた存在なのだと、生まれたときから信じてきたのだから当たり前である。
よほどの間抜け面をしていたのか、ディーノは綱吉を見て軽く笑って、再び話し始める。

「殆どの人間は知らねぇよな、そんなこと。当たり前だ、一族が総力を挙げて世間に隠しているんだから。五大家の当主はみんな、世間が定義するウィザードなんかじゃない―――超越した記憶能力も身体能力も持ち合わせてはいないが、正真正銘の“魔法使い”なんだ」

いま、一気に、自分がボンゴレファミリーの10代目当主だという可能性が、銀河系の果てに遠のいた気がする。 今までも、太陽系の彼方にあったのだが。

「ま、魔法使いって・・・」
「あ、お前、信じてないだろ」
「当たり前ですよ!俺、箒で空飛んだりとか出来ませんからね!!」
「はは、そりゃ不可能だろ。航空力学的に」
「な、なら、魔法使いなんて・・・っ」
「空を飛ぶだけが魔法使いじゃねえよ。・・・例えば、だ。日本の雲雀家の当主の能力として有名なのは読心術 ―――つまり、人の心が読めることだな。それから、相手の記憶を見ることも出来るらしい。 もちろん、持ってる能力はそれだけじゃないんだろうが、ウィザードの世界で知られているのは、それだな。一説によれば、脳の前頭前野の変異的な異常発達で、他者の前頭前野と共鳴することができるからだって言われてる」
「前頭前野って・・・」
「脳の中で、記憶や感情、行動の抑制、その他高度な精神活動を司っている、脳の中の脳とも呼ばれる場所さ。雲雀家の当主は、他人の前頭前野に自分のを共鳴させて、人の心を読んだり記憶を見たりできるってことだ。この雲雀家の当主特有の形質は遺伝形質で、常染色体劣性遺伝だから、単純計算で次の子どもがこの形質を持っている確率は25%。そして、この能力を引き継いでた子どもが次の当主ってことになる」
「はあ・・・」
「ちょっと魔法使いっぽいだろ」

―――ファンタジーよりも高校時代の生物を思い出したのは俺だけなんでしょうか。

「それは・・・どっちかって言うと、超能力者なんじゃ・・・」
「ああ、この場合そうとも言うな。他にも色々あるぜ?中には、科学的に説明出来ない能力だってある」 「いや、その、雲雀さんの能力も十分科学的に説明出来てないような気が・・・」
「まあな。でも、まだ、身体的な変異だから分かり易いだろ?―――だってお前、科学的に考えて、人の魂を目に見える形で具現化したり・・・魂の宿った人形”を創ることが出来ると思うか?」
「え?」
ディーノの言葉に思わず自分の膝に視線を落とせば、美しく煌めく黒曜石と青玉の二対の瞳がこちらを見上げていた。
その瞳には、作り物には有り得ない、強い意志が宿っている。
けれど、この子どもらは、性別を持たない作り物の“ヒトガタ”なわけで。

「―――え?」

綱吉の、状況を掴み切れていないのがありありと分かる間の抜けた声が、静まりかえった部屋に響いた。




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