お届け物です。


ディーノの言葉と、子ども達の様子に混乱した綱吉は、しばらく頭を抱え込んで必死に考え込んだ。

「そう、ぞうしゅ・・・って、ちょっと待って下さい、落ち着いて考えますから・・・」

ええっと・・・と、考え込んだ綱吉の手を握りながら、リボーンとコロネロは静かに待っていた。

理解しがたいことだろうとは思う。
それでも、解って欲しかった。

―――それだけを頼りに、この300年という時を生きてきたのだから。

いや、“生きてきた”というよりは、“動いてきた”と言った方が、正確かもしれないが。

自分の思考を整理するのに必死な綱吉は、そんな子ども達に気付かないまま、ぐるぐると回り始めた考えを口にした。

「リボーン達は、300年前の初代の遺産で・・・ということは、リボーン達を生んだのは初代なわけで・・・え、普通に、お父さんは初代なんじゃ・・・それとも、ボンゴレの当主がお父さんっていう扱いになるのか・・・??」
「―――まあ、今は、そんな感じに考えててくれれば十分だ。・・・なぁ、リボーン、コロネロ?」
「・・・ふん、仕方ねーぞ、ダメツナだからな」
「ああ、どうしようもねぇヤツだからなコラ」

昔からそうだった、という言葉は子ども達の美しい唇から発されることはなかった。
そして、このとき綱吉は、ディーノの今は、という言葉に込められた決意とも懺悔ともつかぬ複雑な感情を理解することは出来なかった。




思考回路がオーバーヒートし始めた綱吉のために、その話は一時保留となり、4人は遅い夕食をとることになった。
すでに、時刻は夜の10時を過ぎている。

山本と夕方まで課題をしていたことが、遙か昔のように感じられた。
ルームサービスが運ばれてきたところで、ディーノの携帯が鳴り始め、それをとったディーノの表情が苦笑に変わる。

「よぉ、結局来たのか?お前はもう少し我慢ってやつを覚えろよ」
『うるせぇ!お前一人にあの方を任せられるか!』
「あーはいはい、ならさっさと部屋まで上がってこい。部屋は分かるな?」
『当たり前だ!』


電話口から漏れ聞こえる声は、どこか突っ慳貪で、イライラと焦っている雰囲気だった。
何を言っているのかは、例によって理解出来なかったが。
ぷつりと電話を切ったディーノは、不思議そうにこちらを見ていた綱吉に苦笑して状況を説明する。

「どうやら、堪え性のない“悪童”が到着したらしい」
「なんだ、もう我慢出来なくなったのか」
「どうしようもねぇヤツだなコラ」
「まあ、仕方ないだろ。あの時まだ若かった分、あいつは人一倍憧れてるんだ」

ディーノの言う“あの時”や“憧れ”などの真意はよく判らないが、また厄介な人間が増えるということを悟って、綱吉の気分はさらに重くなる。
しかも、先ほどの電話口の口調から察するに、綱吉が苦手とする気性の荒い人物のようだ。
無意識で吐いた溜め息に気付いたらしいディーノが、そんな綱吉を励ますように声をかけてきた。

「今から来るのは、獄寺隼人っていう、分家のウラガーノファミリーの当主だ。気性は荒いし口も悪いが、まあ、悪いヤツじゃねぇ・・・っと、もう着いたらしい」

言葉が終わらないうちに、部屋の豪勢な扉が性急な音を立てて開かれ、灰色の髪をした青年が入って来る。
そして、周りには目もくれないで、真っ直ぐに綱吉の目の前までやってくると、数瞬彼を灰白色の瞳で見つめてから、まるで宝物を手にするかのように恭しく綱吉の手を取ってその場に膝を折った。
外見が整っているだけに、その所作も流麗で美しい。

「お会いしたかったです、ツナヨシさ―――十代目」

電話口から聞こえてきた雰囲気からは想像も出来ないほど、落ち着いた様子で、真摯に見上げてくる青年にどう対応したらいいのか解らず、ドギマギしていると、正面に座っていたディーノが助け船を出してくれた。

「おい、獄寺、自己紹介くらいしてやれ。ツナとは、初対面なんだから」
「・・・失礼しました、十代目。俺は、ウラガーノファミリー当主、獄寺隼人と申します」
「え、あ、・・・はぁ・・・沢田綱吉です」

完全に自分以外を見ていない様子の年上の青年に焦りつつ、取り敢えず当たり障りのない自己紹介を返せば、ふっと灰白色の瞳が眇められる。
そこには、リボーンやコロネロと同じような、何かを求める光があって、なおさら戸惑った。
しかし、すぐにその光は奥に沈んで、理知的な光だけになる。
そして静かに立ち上がりディーノを振り返ると、先ほどまでの落ち着いた雰囲気から一変した、ぞんざいな口調になった。

「おい、跳ね馬、龍家の襲撃があったと聞いた。てめぇが居ながら、十代目を危険な目にさらすなんてなにしてんだ!」
「ああ、確かに、あれは俺の不手際だった。少し、龍家の工作員を甘く見ていた」
「それで十代目にもしものことがあったらどうするつもりだったんだ!?ああ!?」

今にもディーノの胸倉に掴みかからんばかりの獄寺の剣幕に怖じ気づきつつ、綱吉は慌てて、ディーノのフォローに回る。

「えっと、獄寺・・・さん?ディーノさんは俺を助けてくれましたよ?」
「・・・」

すっと真っ直ぐに意志の強い視線を向けられて、綱吉は再び口籠もった。

「いや、あの・・・」
「・・・十代目」
「は、はい!?」
「なんて慈悲深いお方なんですか!!?俺、感激しました!!」
「は、はぁ・・・」

いきなり手を握られ感極まったような様子で言われて、もはや返す言葉が見つからない。

―――この人、変な人だ。

その第一印象は、それから先、一度も変動することのなかった獄寺への認識だった。



その夜。
無駄にある部屋の1つで、子ども二人に挟まれるようにして、綱吉はベッドに横になった。
ディーノと獄寺は、それぞれ別の部屋で休んでいる。
―――本当に休んでいるのかは、綱吉の知るところではない。

「なあ、リボーン、コロネロ」
「・・・ああ?」
「なんだ、コラ?」

明かりの消えた部屋に静かに落とされた呟きに、両サイドから返事が返ってきた。
どちらも、突っ慳貪な声だけれど、不思議と暖かみのある声で。
それに安堵して、とろとろと眠りに誘われながら、思ったことをそのまま口にする。

「俺さ、この年でお前達の“お父さん”になれるとは思わないけど・・・少なくとも、お前達のことをすっごく大切には思っていることは確かだから・・・」

―――だから、そんな寂しそうな目をしなくても良いんだよ。

そんな言葉を残して眠りの世界に旅立った青年を、夜目の利く二人の子どもは、その宝玉のように美しい瞳でしばらく見つめた後、どちらからともなく綱吉の腕に手を絡ませた。

「そんなこと・・・」
「ずっと前から知ってるぞ、コラ」
「「Buona notte, padre.(おやすみなさい、お父さん)」」



Io conosco la Suo affettuosita.(あなたの優しさを知っています)
Io conosco la Suo fermezza. (あなたの強さを知っています)
Io conosco la Suo solitudine. (あなたの孤独を知っています)

Quindi.(だから)

―――Io voglio essere con Lei.(あなたの側にいたいのです)




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