お届け物です。


魂。
それは確かに存在するけれど、決して存在証明をすることは出来ない不可視の存在。

つまり―――

「現実感がさっぱりなんですけど」

綱吉は、自分の目の前でにこにこと人懐こすぎて胡散臭い笑顔を浮かべる電波的美青年に向かって、ソファに座ったまま脱力気味に呟いた。
魂云々は横に置いておこう。
もはや何を言っても仕方がないような気がしたし、いまさら常識が通じるとは思わない。

だが、それにしても。

「魂を体に固定するってどういう意味なんですか、物じゃあるまいし」

意味が分からない、と説明を求める声に応じて、骸が形の整った唇を開こうとした所で、綱吉はくいっと両サイドから服の袖を引っ張られた。
見れば、本革ソファの左右に座っていたコロネロとスカルが綱吉を見上げている。
その湖のような蒼い瞳と、大地と同じ茶褐色の瞳には、今まで見たこともないような不可思議な光がたゆたっていて。

「コロネロ、スカル・・・?どうした?」

綱吉は、その光に嫌な胸騒ぎを覚えて、思わずそれぞれの形の良い頭に手を伸ばす。
そして、二つの頭を胸元に引き寄せながら、内心で祈りにも似た呟きを漏らした。

そんな目をして俺を見るな。
そんな、終焉を迎えて安堵する老人のような、訪れた終わりを許容する瞳で。

サラサラと指通りの良い子どもの髪が、綱吉の指の間をするりと滑り落ちていく。
それがなんだか、子ども達の存在自体のように思えて、泣きそうになった。
いつも何やかんやと騒いで、素直ではない子供たちも、今はその滑らかな頬をすり寄せてくる。

「ツナ」

左右の腕に子どもを抱き込んだ綱吉を、いつも通りに平坦で、けれど少しだけ羨ましそうな色を滲ませた、漆黒の髪をしたリボーンが呼ぶ。

ああ、腕が足りない。

リボーンは、骸よりも綱吉に近い位置で、黒いスラックスのポケットに手を突っ込んだまま立っているだけだ。
それなのに、どうして。

ぽつん、と独りぼっちみたいに見えるんだろう。

腕が足りない、俺の腕は―――

「あなたの腕は、2本しかないのですよ、ドン・ボンゴレ。・・・本当に、いつまでも学習しない方ですね」

骸の、嘲笑と言うよりは、哀れみを含んだ声に反応したのは、綱吉よりもその腕の中にいた子供たちと、リボーンだった。

「「「うるさい、お前に何がわかる」」」

その声は、まるで邪魔者を自分たちの世界から追い出そうとするような、排他的な響きを含んでいた。




結局、リボーンはスカルをソファから叩き落として綱吉の腕の中に収まり、スカルはスカルで、ソファの後ろに回り込んで綱吉の首に、そのしなやかな手を巻き付けた。

両腕に子ども、背後にも子どもを抱える19歳。
それは、端から見ると異様な光景に見える気がしないでもなかったが、綱吉は子ども達の好きにさせる。
不思議と、ディーノや獄寺や骸に見られても、恥ずかしいとは思わなかった。

彼らも、目の前の光景に見慣れているかのように特に何も言わず、静かに視線を交わし合う。
何かをお互いに確認するように。

そして、骸がおもむろに口を開いた。

「あなたは、沢田綱吉です。誰が何を言おうと、あなたが何を思おうと、それは変えることのできない不変の事実です。あなたが生きてきた年数は、あなただけの物です。いいですね?」
「は?―――え、あ、はぁ・・・」

言われている内容は至極当たり前のことなのに、言っている骸の様子は尋常ではないくらいに真摯で。
なまじ彼の顔が整っているだけに、真剣な顔をすると迫力があり、綱吉はその雰囲気に呑まれながら中途半端な返事を返す。
そんな煮え切らない態度に対して、左右から無言の非難―――平たく言えば、子供たちからの鉄拳が飛んだ。

「痛いってコロネロ、リボーン!!痛い痛い!!スカル、地味に痛いから髪の毛引っ張らないでよ!!」

一瞬にして張り詰めた空気は和らいだが、骸は、話題を打ち切ることなく話を進める。

「それだけは絶対に忘れないで下さいね?綱吉くん」
「う、うん」

子どもとの攻防戦を終えて、多少肩の力が抜けた綱吉の返事に、電波的美青年はにっこりと人好きのする笑みを浮かべて鷹揚に頷いた。

「では、説明しましょう―――“あなた”について」




昔、300年と少し前。
まだ大きなウィザードファミリーがほとんど存在しない時代。
ヴァリアーと呼ばれる、はぐれウィザードの組織があった。

その組織を纏めていたのは、当時最強のウィザードと呼ばれていた男。
彼の力による支配で、ヴァリアーは他のはぐれウィザードの集団とは一線を画す結束を見せていた。

けれど。

ある日、彼の秘蔵っ子と呼ばれていた異母弟がヴァリアー幹部数名とともに反旗を翻した。

それが世界屈指のウィザードファミリー ボンゴレ の始まりであり、長い長いヴァリアーとの因縁の始まり―――。




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