発展的アルゴリズム <2> 「・・・は?」 久々に帰還して、オフにかこつけて珍しく寝台に沈んでいた雲雀は、今にも泣きそうな顔で駆け込んできたボスによって、その安息の眠りを奪われた。 まあ、そこは構わない。 他でもない綱吉だ、それ以外の人間なら速攻で血の池に沈めてやる。 そう、それは別に構わなかったのだ。 雲雀がこぼした、普段なら絶対に口にしないような気の抜けた疑問符は、その綱吉の部屋に入ってからの第一声に対してのものだった。 曰く―――。 「どうしよう恭弥さん!!俺、俺、リボーンが格好良く見えちゃうんです!!!」 どこに、こんなこっぱずかしいことを真剣に言うマフィアのボスが居るというのか(しかも、確か、今年で26歳)。 それが自分の上司だと思うと、一瞬柄にもなく頭を抱えたくなったが、なんとかその衝動を抑えて口を開く。 「―――取り敢えず綱吉、隣の部屋に行ってくれる?ここ、一応寝室なんだけど」 「あ、すいません!!」 言われるままに移動した綱吉を見送って、雲雀は寝台に身を起こした姿勢で溜め息をついた。 寝起きの半裸の男を見ても頬を染めないくせに、一体、あの子どものどこに頬を染める要素があるというのやら―――。 綱吉が頬を染めるのは、それがリボーン相手だから、という事実を、雲雀は敢えて無視しながら軽く身支度を調えた。 「それで、あの子どもがどうしたって?」 居室のソファに向かい合って、手ずから紅茶を淹れてやりながら、ボスの話を促してやる。 すると、待ってましたとばかりに綱吉の話が始まった。 「最近、俺、なんか変なんです!!」 「ふぅん?(昔から変わってたと思うけど)」 「リボーンと目が合っただけで顔赤くなるし、名前呼ばれたらドキドキするし―――」 「ストップ、綱吉。ちょっと待って」 「え?あ、はい」 「それ、本気で言ってる?」 「当たり前じゃないですか!!だから困ってるんです!!!」 両手に余るほどの愛人を抱えている自分のボスが、本気でそんな中学生じみた状態にあるなど、さすがに雲雀も思わなかった。 「・・・そう・・・」 「雲雀さん?」 微かに悄然としてしまった雲雀を、綱吉は心配そうに見遣りながら声をかけた。 しかし雲雀は、それになんでもないという風に首を振って応え、再び話を促す。 「ええっと、それでですね。なんか俺、リボーンの言動にやたら敏感に反応しちゃうっていうか・・・。いつの間に、あんなに大きくなっちゃったのかなーみたいな」 「へぇ」 「リボーンが格好良く見えるとか、有り得ない筈なのにぃ!!!このままじゃ、俺、ショタコンになっちゃいます!!!」 「・・・(そろそろ身長抜かされそうな子ども対象でも、ショタコンになるの?)」 頭を抱えて騒ぐ綱吉を前に、雲雀は少しズレた方向に疑問を抱いていたが、やがて溜め息をついてソファに背中を預けた。 ―――やっと、あの子どもも、本気で綱吉を落としにかかったみたいだね。 そう言えば、綱吉が惚れていたという女が、近頃結婚したのだと聞いた。 0歳の時から愛人を抱えていたリボーンだ、本気で自分の物にしようと動き始めたなら、初心の塊である綱吉などひとたまりもないだろう。 雲雀も、一度酒場で愛人と話しているリボーンを見かけたことがあるが、あの時のリボーンの流し目には確かに相当な効果があった。 あれで遊びなのだから、本命である綱吉相手など、それはそれは壮絶なものであろう。 これは―――。 「綱吉、諦めた方が良いと思うよ」 「あ、諦めるって・・・なにを、ですか?」 「そりゃ色々と。まあ、いいんじゃない?マフィアなんだから、今更、犯罪の1つに児童虐待が加わっても」 「良くありませんよ!!しかも児童虐待なんて!!!」 「18歳未満と性交渉を持った場合、児童売春または児童虐待の罪に問われても文句は言えないよ、綱吉」 「なんでもうヤっちゃったことになってるんです!!?」 「あれ、まだ、手は出されてないんだ」 「当たり前です!!な、なんで俺がリボーンと・・・その・・・そんな風になんなきゃいけないんですか!!!?」 わたわたと落ち着かない綱吉の弁明に、雲雀は軽く眉を上げただけで、優雅に紅茶に口をつける。 「恭弥さん!!」 「綱吉、昔を思い出してごらん。今と同じような状態になったことがあるんでしょ?」 「昔・・・?こんな風に・・・」 【症状1】その人が気になって仕方ありません。 【症状2】目が合うと顔が赤くなります。 【症状3】名前を呼ばれるとドキドキします。 【症状4】手が触れただけでどうしようもなくなります。 ・ ・ ・ ポクポクポク・・・チーン♪ 「・・・あ・・・。え、えぇーーーー!!!!!!?????」 「うるさいよ」 ガスッ 「あいた!って、えぇ!!?」 「思い当たるんでしょ?」 「そんな、だって、リボーンですよ!?京子ちゃんじゃないのに・・・」 「そのキョーコって女、結婚したんだってね」 「うっそれを言わないで下さい」 「でも、その女のこと言われても、そんなに気にならないんじゃない?」 「・・・あ」 わぉ、良かったね、それは新しい恋ってやつだよ。 「さ、最悪だーーーー!!!!!!!!」 綱吉の上げた叫びは、誰に届くこともなく風に消えた。 Next Back |