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覚悟




「希望・・・か」

日に焼けることがないために、病的な白さになった自身の手を見ながら、綱吉は窓辺へ目を向けた。

身体を横たえた綱吉が庭を見ることが出来るように、という配慮から、寝室の窓はいつもカーテンを全開にしてある。
鳥が羽ばたいていった空を、動くことの叶わない病床から見上げ、静かに吐息をついた。




山本が、泣いている気がした。

己の感傷かも知れないけれど、綱吉には、何故か山本が声にならない叫びを上げている気がしてならなかった。



裏切った以上、処断するのはファミリーを統括する者の義務。

それがどんな理由での背信であっても。

ボスである綱吉が山本を罰するための手を下ろさないわけにはいかない。


だから、どうか。

裏切ることに苦しまないで欲しい。

もう、取り返しなどつかないのだから。

いっそ、晴れやかな気持ちで裏切ってはくれないか。

裏切られたところで、オレの君に対する想いに一部の乱れもないのだから。




何のための裏切りか、など、綱吉にしてみればそれほど問題ではない。
山本のことだ、やむにやまれぬ事情があったのかもしれない。
裏切りによって、苦しむ事象も増えたことだろう。


それでも、どうか、オレのことで悲しまないで。
側にいて上げられないけれど、側にいて欲しいと思うけれど。


君が思っている以上に、オレはボスで、ファミリーが大事で。


だから、背信者の君が裏切るために支払った苦しみを無碍にはしない。

君がその気ならばオレはボンゴレのボスとして受けて立とう。


お互いに、覚悟を決める時間が来た。


「そう、たとえ君が、オレの病気の治療法を模索しているんだとしても」


敏いマフィアの帝王は、ここにいない優しい背信者へ、まるで子守歌を歌うかのような暖かな声でそう告げた。




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